【佐伯紬】 一九五一年十二月二十三日

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未だに人身御供が行われていることも問題だが、この巫女となる人間を決めるという占い師も胡散臭い。そもそも村をまわった感じだと占い師らしき人なんてどこにもいなかったようにも思う。 そこまで考えて、ふと合っていて欲しくない答えを見つけてしまった。いる気配のない占い師、男でも良いという巫女、生け贄がありながらなんの反発も生まれていない村。そういえば、美穂子さんの旦那さんの徴兵は村長から聞かされたという話もしていたし、村の住人と打ち解けられるようになったのも旦那さんが亡くなってからだと言っていた。 間違いない、このままでは美穂子さんが危ない。俺はできる限りの速さで家へと走った。家に着く途中すれ違った村長の姿に嫌な予感がしつつ急いで帰り着く。 「お帰りなさい、(つむぎ)さん。どうしたの、そんなに慌てて」 「美穂子さん、大事な話があります。内密に話せる部屋はありますか」 挨拶も返さずに肩を掴む俺の異様な様子に、美穂子さんは何かを察したのか彼女の普段使っている寝室に俺を招き入れた。 「それで、大事な話って?」 改めて聞いてくる美穂子さんに、気を落ち着けて俺は先ほど資料で読んだ内容を説明した。 「そう……」 人を贄とした恐ろしい儀式の話をしたというのに、特に驚いた様子のない美穂子さんに疑問を感じつつ、俺は更に詰め寄った。 「美穂子さん、俺と一緒に和花ちゃんを連れてこの村から逃げましょう!」 「このままでは私が巫女にされてしまうから?」 一緒に逃げることを提案した俺は美穂子さんの言葉に固まってしまった。 「どうして、それを……」 「さっき村長さんが来て言われたわ。お前を次の継ぎ火の巫女とする、逃げられると思うなって」 「そんな……」 「元々、村長から夫の徴兵でいなくなったことを聞かされて、村の人たちが急に親しげになったことに違和感はあったの。私も馬鹿じゃないわ、資料の内容を聞いたら前に巫女になったのが夫だということくらい気づくわ」 まさか既に巫女に選ばれていた上に、薄々勘づいていて普通に村で生活していたなんてと驚愕する。 「分かっていたならなおさら、逃げましょうよ美穂子さん!」 俺の懇願に美穂子さんは頭を左右に振って応える。 「村長の言うとおり、逃げられないの。この家がどこにあるのか知ってる? 村の真ん中にあるのよ。 どの方向から逃げようとしても村の人の目に映る。 ここに住んだ時点でもう手遅れなのよ」
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