悪魔は誰だ

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 ***  悪魔を倒す唯一にして絶対の方法は、暗闇を克服すること。真っ暗な闇の中でも敵の位置を把握する方法を身に着けることだとされていた。  ゆえにフェリクスは、伯父と一緒に訓練を続けていたのである。つまり、音だけで敵の位置を確かめ、正確に攻撃を当てるという技術だ。今まで悪魔に挑んだ戦士は数多く存在したが、いずれも闇の中での恐怖に耐え切れずに逃げ帰るか、あるいはそのまま行方不明になってしまうかのどちらかであったそうな。  無理もない。太陽の光も街灯も一切照らさない闇の中、本能的な恐怖を感じるなというのがまず無理な話である。ましてや、闇の中で迷子になどなったら目もあてられない。帰ってくることができなかった者達の多くは、闇から無事光の世界へ帰還することができなかったのだろうと思われた。というのも、悪魔は“光を喰う”能力以外、大して脅威にはならないと思われるからだ。悪魔に逃げられて闇の中で餓死した人間はあれど、直接悪魔に殺された人間は一人もいないかもしれないとさえ言われているほどである。というのも。 『悪魔の身体能力は、並みの人間の子供程度しかないとされているんだ。ナイフのようなもので反撃されたやつもいたが、大した怪我はなかったらしい。触った感覚からしても、けして大柄ではないし腕力もないという。ただ、闇の中にいるから全然攻撃を当てられないし、闇に誘い込まれて出られなくなった人間は山ほどいるってだけのことだ』  だからな、と伯父は口がすっぱくなるほどフェリクスに繰り返したのである。 『現時点で光が届く最後の駅……ローレタウン駅の構内。そこから先は、今まで鍛えた“耳”を使って生き残るんだ。ローレタウン駅は常に英雄のため、音楽を流し続けている。その音楽の聞こえる方向を正確に聞き取り、とにかく生きて戻ってくるんだ。大丈夫、お前ならできる!』  優しい伯父は、悪魔を無理して倒すことより、とにかくフェリクスが無事に帰ってくることの方を望んでくれていた。だからこそ、フェリクスは何が何でも本懐を遂げなければとも思っているのである。何より、悪魔を倒さなければ今の生活が何も変わらない。報奨金もさることながら、みんなが闇に怯え、生徒達が兵器開発のための工場に駆り出され、経済にも打撃が及んでいる状況なのだ。  今日を、悪魔の最後の日にしてくれる。金目当てだろうが自己中心的だろうが、ここまで来た以上後戻りなどできないのだ。  意を決して列車から降りたフェリクスは、光の全く届かぬ真っ暗闇の街を睨み据えた。 ――待ってろよ、悪魔!  この時。フェリクスは一切気づかず、考えることもしなかったのである。  何故、政府は悪魔を“悪魔”と呼び、堂々と触れ回ったのか。  そして、何故悪魔は悪魔になりえたのか、などということなど、けして。
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