悪魔は誰だ

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悪魔は誰だ

 この世界の光が、喰われている。  それに人々が気づいた時には、いくつもの街が明かりを失い、人々が大都市に逃げてきてからのことだった。何でも、光を喰う悪魔とやらが出現し、そいつのせいでその“喰われた”空間は太陽も街灯も一切照らさぬ真っ暗闇になってしまったというのだ。  惑星国家“オルタミナ”。この世界では、世界まるごと一つの国家として機能しており、それぞれの街がさらに細かく自治権を任されているという状態にある。オルタミナ帝国政府は、既にお触れを出していた。光を喰う悪魔の被害は甚大である、悪魔を倒して世界を救った“英雄”には帝国から英雄の称号と、莫大な報奨金を与える――と。 「でも、お触れが出てから数年も過ぎてるのに、誰も悪魔の討伐に成功したことがない、と」  一回、二回、三回。  家の裏手で毎朝百回の剣の素振りが、十五歳のフェリクスの日課である。しがない鍛冶屋の息子であるフェリクスだが、剣の扱いと恵まれたの身体能力から両親に期待される存在であった。どういう期待であるか、など言うまでもない。悪魔を討伐し、英雄になってくれるのではないかという期待である。  正直そんな称号に興味などなかったフェリクスだが、我が家が貧しいことは知っているし、借金があるのも理解している。期待されてしまえば、応えないわけにはいかないのだった。本当は剣で魔物と戦うより、接客や営業で人々を笑顔にする方が自分の性に合っているというのに、だ。  今日も今日とて、体を鍛えるため素振りをする。これが終わったらランニングをして、元憲兵の伯父さんに稽古をつけてもらうことになっていた。最近は店先でお客さんと喋る機会もめっきり減ってしまっている。早く悪魔を討伐して、訓練より店の手伝いに戻りたい、と切に願っているフェリクスだった。 「やっぱりあれか。真っ暗闇で敵を倒すのが難しいからか?」 「そりゃそうよ。どんなに銃の名手だろうと剣の使い手だろうと、敵がどこにいるのかわからないんじゃ倒しようがないでしょ?」 「そりゃそうだ」  そんなフェリクスの素振りを見ているのが、同い年の少女アンナだった。彼女は実家が裕福(というか、実質フェリクスよりも階級が一つ上だ)なので、中学校に通えている。この世界で、義務教育とされているのは小学校まで。貧しい家の子供は、政府から支援がでる小学校までしか出ることができない生徒も少なくないのだった。 「ほんと、さっさと誰か倒してくれないかしら。学校も授業返上して、工場での武器生産の手伝いとかやらされてるのよ?ほんとやってらんない。武器があっても、使える人間がいなきゃ意味ないのに。悪魔を倒せば街に光も戻ってきて取り戻せるって話になってる以上、真っ暗闇になって人が住まなくなった街をそのまま爆破できないのはわかってるけど……それでも、非効率ったらありゃしないわ」  切株に腰かけて、ため息をすくアンナ。キラキラとした金髪に、きりっとした青い目の美少女。お人形みたいに可愛い少女だが、少々気が強すぎるのが難点である。
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