弟すら敵視するヤンデレ……嫌いじゃない

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弟すら敵視するヤンデレ……嫌いじゃない

「お姉様!お招きいただき、ありがとうございますっ」 元気よく笑いかけるのは、かわいい妹のサリア。桃色がかった茶色の髪に、翡翠色の大きな瞳。まさにヒロイン、な容姿チートはさすが私の妹! 今日はディークバルドとの夕食に、双子の弟妹を招待したのだ。 そして弟のジオはというと、ごきげんでやってきた妹の少し後ろからついてきて、ぶすっとした顔をしている。十五歳は思春期だから。私を見れば文句をいうのは、反抗期だからと思っている。 最近では、うっすらと「がちで私のこと嫌いなんじゃ?」って思うときもあるけれど、そんなものは気づかなければ何の問題もない。 「いらっしゃい!サリア、ジオ」 そう言って二人をぎゅうぎゅうと抱き締めると、ジオが露骨に嫌そうな顔をして逃げようとする。 「離せっ!変態!」 「もう、思春期って大変だわ。素直じゃないんだから」 イスキリが「本気で嫌われていますよ」って目をしているけれど、見なかったことにした。 嫌がらせも含め、ジオの顔に胸を押しつけて抱き締めていると、やってきたディークにべりっと引き剥がされた。 ――ゴンッ!! 「がはっ!」 あら、ジオが壁に激突した。 ディークは私を抱き締めて、憎しみが篭った目でジオを見る。 一瞬で部屋の温度が下がったような気がした。 「おい。ユウナに近づくな、弟ごときが」 うん、ディーク。 あんなチビガキでも一応は王子。そして、私があなたと結婚したら跡継ぎはあの子。はい、未来の国王様ですよ! 私は彼の頬に手を添えて、そっとこちらを向かせる。 「もう、冗談はそこまでにして?かわいいんだから、ディークったら」 そんなに私のことが好きだなんて。 あぁ、幸せすぎて倒れそう。 にんまりと笑みを浮かべていると、ディークが悲しそうな目で言った。 「弟が姉に惚れないなんて保証はどこにある?証拠は?今は恋情がなくとも、未来にそうなる可能性は?」 かなり疑り深い。 大丈夫よ、ジオなんてディークのかっこよさの足下にも及ばない。 しかも顔だけは私にそっくりなんだもの。自分の男バージョンと恋愛するなんてとんでもない。 「ありえないわ。私が愛しているのは、あなただけよ?」 私は彼の肩に手を乗せ、軽く唇にキスをした。 それをきっかけに、ディークは人目もはばからず私の額や頬にキスを始める。 「滅びろ変態。きしょく悪い」 後頭部をさすりながら、ジオがこちらを蔑んだ目で見ていた。 あれ、やっぱり本気で嫌われているなぁ。 うん、これはもう最終手段をとるしかない。 「ねぇ、ジオ」 「なんだよ」 「私、ディークと結婚するから、王位継承権を放棄しようと思うの」 「…………は!?」 ふふふ、驚け。弟よ。 私は知っているんだ、ジオが王になりたくて私に反発していたことを……。 このままいけば、法律に従って第一子である私が女王になる。 はずだった。 でもそれはディークと出会うまでのこと。 女王になるんだったら、ディーク以外の政治に詳しい人と政略結婚しなくてはいけない。もしくは隣国の王子を婿にするとか、政治的な措置が絶対に必要になってくる。 「私、どうしてもディークじゃなきゃダメなの」 しおらしく目を伏せると、ディークが私の身体に腕を回して囲い込むように捕まえる。 ええ、そうよ。 これまで何度も転生した結果、ようやく見つけたこの人を手放すわけにはいかないの。 「ジオは優秀よ。とってもいい国王になると思う。だから安心して継承権を放棄できるわ」 これも本当。 ジオは錬金術師で戦闘能力はあんまりないけれど、国民のために役立つ魔法道具を開発したり、積極的に貧富の差を解消しようとしたり、優しいやつなのだ。 私以外には優しいやつなのだ! 「本気で?そんな魔術狂いの男と結婚する気?」 ジオが疑いの目を向けてくる。 油断させて暗殺を狙ってるんじゃないかって?失礼な、やるなら堂々とやるわ! しかし私が反論する前に、ディークがジオに告げた。 「魔術狂いではない。もう今の俺はユウナに狂わされている」 「狂ってることは認めるんだ」 あっけにとられるジオ。 「ジオ王子。人は皆……何かに狂っているんだ」 「いや、それ名言にはならないからね!?ちょっとこの人おかしいの域を超えているよ?危険人物じゃないか」 「ユウナの美しさは確かに危険だ。だから俺がしっかり見届けておく」 「死にさらせ、この色ボケ魔導士!……はっ、でも確かに姉とはお似合いだ。危険人物同士、くっつけておいた方が安全?」 失礼ね。 けれど私は弟から「お似合い」という言葉で出て、ついはしゃいでしまう。 「やだ、もうそんな本当のこと!お似合いだなんて」 王位継承権なんてあげちゃう。 だって私には、国よりも大事な人ができてしまったから……! 頬を両手で挟み、照れる私を見てジオがゴミを見る目をしているけれど気にしないわ。 「ディークがいてくれたら、私なんでもできる気がする。国政に関わるよりも、私は魔女が遺した罠を解除する方が合っているわきっと」 自分のしりぬぐいに精を出すとしましょう。 ディークはふっと穏やかな笑みを浮かべ、また私を見下ろした。 「君が望むなら、王位などいつでも手に入れるが。まずはあの生意気なガキを始末しようか?」 あら、目がわりと本気ね。王位は本気でいらないわ。 それにダメよ。私の弟だからね? 「やだ、ディークったらもう。うふふ、王位はいらないの。あなたがいるんだもの」 「そうか」 「そうよ。それにジオが死んだら、双子のサリアが泣いちゃうわ」 そういえば妹は、と思ってキョロキョロすると、サリアはすでにテーブルについて一人もくもくと食事を始めていた。 マイペース!! まったくこっちの話を聞いていない! 「お姉様ぁ、コッコー鶏の足の素揚げがとってもおいしいですわ~」 いきなりのゲテモノ。 サリアの好物を用意しておいてってシェフには頼んだけれど、サイコパスヒロインは食べるものもなかなかグロテスクなものをお好みなようだ。 「マトンの胃袋詰めソーセージもたっぷりありますわ~。さすがお姉様、私のためにこんなにたくさん」 「え、ええ。あなたのために用意したのよ?全部食べて?何なら包んで持って帰りなさい」 サリアの呑気な声に戦意喪失した弟は、渋々ではあるものの同じテーブルについた。 「一筆書けよ!王位はいらないって!」 「ふふふ、もう書いてあるわ。あなたのところとお父様のところに送ってあるから、あとできちんと読んで保管しておいてね?」 私はディークにエスコートされて椅子に座り、彼と並んで食事を始める。 「それでは、(わたし)の結婚を祝って乾杯しましょう?」 「お姉様、おめでとうございます!」 あぁ、妹は素直でかわいい。ジオはまぁ、ブスッとしているけれど反対する気はまったくないらしく、これはこれでかわいいもんだ。 隣を見れば、蕩けるような笑みを向けるディークがいる。 「家族で食卓を囲むというのは、悪くないな」 「ディーク……!あなたがそんなことを言うなんて!!」 驚いてグラスを落としそうになった。 まさかディークが家族愛に目覚めるなんて! 「ついさっき、俺のこと始末するとか何とか言っていたくせに」 ジオが信じられないものを見るような目でディークを見ている。 「うふふ、根に持つタイプなのかしら?ジオったら、子どもなんだから」 「まだ5分経ってませんけれどぉぉぉ!?」 過去のことは水に流さないと。 うん、ごめん。 500年前に騙されたことをまだ根に持っている私が言うことじゃないか。 こうして無事に弟妹との顔合わせも済み、私たちの結婚は着々と進んでいくのだった。
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