届かない宅配便

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届かない宅配便

一日遅れで届くはずの宅配便の荷物が届かない。生活用品一式がそこに入っているのに、困ってしまう。 宅配便のコールセンターに、私が電話を掛けてみたものの、呼び出し音が鳴り続けるだけで誰も電話を取らない。 「コールセンターが繋がらない。荷物番号も入力したのに」 私が不貞腐れていると夫は、 「昨日はあの部屋が使えないからリビングで寝たし、散々だな」 両手を軽く上げてお手上げポーズをした。 この部屋は玄関から入ると真っ正面にダイニング、右手にキッチン、ダイニングの左にトイレとお風呂がある。奥に二部屋あるのだが玄関から見て右手が洋室、左手が和室になっている。 昨日男の子の幽霊が出た洋室の隣の和室が、本来寝室になるはずだった。しかし、隣合う洋室と和室も引き戸で仕切られていて、あの幽霊が夜中に現れそうで怖いので、ダイニングに折り畳みベッドを広げて二人で寝ていた。 しかし、不思議な事に幽霊が一番現れそうな夜に、その男の子は現れなかった。 「なあ、宅配便が配送事故を起こしてるなら、いっそのこと全部買い換えないか?引っ越し手当ては十万円会社から出てるから」 夫は幽霊騒ぎから気分転換しようと明るく振る舞ってくれる。 「家電は買い換えるって決めたけど、生活用品は配送が遅れてるだけなら同じものが被ってもったいないよどうしても必要なものだけ生活用品は買おう」 私はコールセンターが繋がらないのは、引っ越し業者と同様に人手不足が深刻な配送業界の事情だと思っている。 「自力引っ越しで節約したのに、あまり買い過ぎたら本末転倒だよな。洗濯機と冷蔵庫から見に行くか」 そう言いながら、夫は玄関へと歩いていく。私も折り畳みの卓上用の鏡でメイクの出来を軽くチェックしてから玄関に向かおうとする。 ローズピンクの鏡の中に、上は薄いブルー下半分は黒のパステル画のようなぼんやりとした影が写り込む。私は慌てて鏡を伏せて玄関に走る。すると、 「いってらっしゃい、早く帰ってきて、ママ」 また、あの男の子の声が聞こえた。先に外階段を降りて、駐車場に向かった夫はこの声に気がついていない。 昨日はお母さん、今日はママ。男の子の幽霊が、じわりじわりと、私との距離を詰めている。跳ね馬のように暴れ回る鼓動、掌を伝う汗、眩暈で視界が歪む。 駐車場まで降りていき、夫の運転する車に乗り込む。砂利を敷き詰めた駐車場を、タイヤが走り抜ける。砂利とタイヤが摩擦する音が、まるで地獄の賽の河原の積み上げた石が、崩れ落ちる音と同じ音のように聞こえる。 私と夫は、幽霊物件に引っ越したことで、地獄に足を踏み入れてしまったのだろうか?
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