裏切り者の記憶

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裏切り者の記憶

 記憶が流れ込んでくる。  恋人だと思っていた、裏切り者の男の記憶。  私に反発するグループの人間に、調査を頼まれていた。  私のことを知らないうちから、悪人として私のことを認識していた。  でも、私の目の前に来た時に、気持ちが一瞬揺らいだみたい。  どうやら、同じ感情を抱いていたらしい。  けれど、自分の感情を使命で押し殺した。  私のやっていることが、悪という思いは拭えなかった。  だから、密告は続けた。  そして、バレたから死んだ。  とっても可哀想な人だと、心の底から同情した。  自分の気持ちに正直になることを、自分から許さなかったなんて。  きっと育ち方が良ければ、ずっと私と居られたよね。  本当に何の為に、この人は生きていたんだろう?  好きな人を自分から、遠慮なく裏切れる人生にどんな意味があるんだろう?  更に奇妙なのは、何も苦しくなさそうで、何も辛くなさそうなこと。  こんなのが居るなんて。  こんな無意味なことが苦しいとすら思えないなんて。  本当に、可哀想。
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