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驚き
俺は中に入って更に驚いた。
宗教施設と聞いてしかも犯罪者を受け入れる様なところはなんとも言えない如何わしさや陰湿さがあるのかと思っていたのだが、外観とはまた違って近代的な趣きがある。
ガラス張りの多い施設内をキョロキョロと無作法に見渡していると、広い道場の様な場所があり、大勢の信徒(おそらく元受刑者)が座禅を組んだり本を読んだりしている。
俺は
その中で見知った顔を発見して驚いた。
山崎?
相手もこちらの視線に気がついた様に顔を上げた。
「橋下?」
ガラス越しでよく聞こえなかったがおそらくそう言ったであろう形に口が動いてすっくと立ち上がった。
俺と山崎の様子を見てとった女はガラス越しに山崎を手招きした。
山崎は女に一礼すると嬉しそうにこちらに近づいて来た。
「どうやらお知り合いの様ですね」
「え、ええまあ」
刑務所内で知り合ったのでロクな知り合いではないのだがそこは態々言う必要もない、おそらくこの女も薄々は勘づいてるだろうし、、、。
「あかのどうしありがとうございます」
山崎は俺に話しかける前に胸のあたりで合掌し女に深く頭を下げながらそう言った。
「あかのどうし?」
わけがわからずそう漏らすと
「私のことです」
そう言って女は微笑んだ。
「変わったお名前ですね」
率直にそう言った俺のセリフに堪らず苦笑した二人に何となく間違ったのだと気がついた。
「あかのどうしというのは通り名で服に赤い線が入ってるので赤のどうし、導く師と書きます」
女が説明した。
「な、なるほど」
ホーリーネームにしては簡素だなと思った。
「それよりお前もここに来たんだな、良かったよかった」
そう言って肩を叩く山崎はとても嬉しそうに笑っている。
「ま、まぁね。俺も心を入れ替えようと思って」
そう言って山崎にしか見えない様に意味深な含み笑いをしてみせた。
「そうかそうか、そういう心構えなら必ず更生できる。先ずは気持ちが大切だ。ですよね?導師?」
「その通りです」
そう言って赤の道師は微笑み返した。
俺はその光景を見ながらとてつもない違和感を感じていた。
なんなんだろうこれは?
俺の含み笑いに無反応どころか、真っ直ぐな目で頷いてくる。
いやそんな事よりだ。
確か山崎は女とみれば見境が無いタイプだった筈だ。
しかし、目の前の女……赤の導師に対して全くそう言った邪な視線を送る素振りも見せず、更に少年の様な純粋な目で俺を励ますなんて……。
何があったんだ?
いや、まさか、、、そんなバカな。
俺は自分の思考を打ち消す様に頭を振った。
「どうしました?」
赤の導師が俺の顔を心配そうに覗き込む。
あまりの近距離と無防備に少し顔が赤らむ。
「いえ、なにも……」
「今日はお疲れの様ですね、施設内を案内するのは後にして自室に案内しますね」
「自室?自分の部屋があるんですか?!」
驚いて堪らずに叫んだ。
「え?えぇ勿論です」
女……赤の導師はにこやかに答えた。
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