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1週間前
真っ暗な部屋、
もうどうなったっていい······。
テーブルにうつ伏せになって今日で、
いや、
須藤 緑沙が病院で突然亡くなって今日で1週間たったのか。
緑沙とオレは恋人同士で愛し合っていたんだお互いに。
絶え間なくやってくる1日が彼女と会う日はいつも新鮮でドキドキで、就職して2人は休みも合わせるのが難しかったが会えば毛先を赤に染めた髪をなびかせ自分の行きたい場所を決めてはオレを強引に引っぱって付き合わされたりもしたっけな。
ちょっと気の強い性格だから主導権を握るのはしょっちゅう緑沙だったけど、
そんな日常が、オレは幸せだった。
なのに······いや、もうすべては終わったこと、いまさら戻れるわけでもない。このまま飲まず食わずで緑沙のもとに行ければ幸いだ。
ガサッ、
何か物が落ちた音、さらにトコトコと耳に入ってくる猫の足音みたいのが。
幻聴か何かか、オレもそろそろあの世に行けそうだよ緑沙。
サーッ、突然カーテン開く。
「うわっ」と久しぶりの陽の光に思わず声が出る。右手で顔にあたる陽光を防ぎながら何なんだよとキレると窓枠に立つ影が、
「おきたか、小林 博啓」
人の名前を呼ぶその姿に「はぁあっ?」と心の声が漏れた。
スマホくらいの大きさで何かの漫画やアニメキャラクターだろう制服姿の女の子、の人形であった。
幻聴の次は幻覚か、しかしその人形はくりっとした丸い目で明らかにこちらを見ている。
「ひどい、顔ね」
一瞬時が止まったが人形はオレの顔を見てそう呟く。そりゃそうだ緑沙が亡くなってから1人家で何もせずただただテーブルにうつ伏せになってボーッとして泣いて寝て、またボーッとして泣いて寝るの繰り返しをしていただけなのだから。
「······なんなんだよおまえ、連れていくならとっとと連れてってくれ、緑沙のところに」
幻だろうが幽霊や妖怪だろうが彼女のもとに連れて行ってくれるなら喜んで行くとそれだけを思っているし人形が動いていようが関係ない。
「わたしのこと、覚えてない?」
「はぁっ? うるせぇな、はやくオレを」
「いいからよく見て!」
あの世へ行く手順なのか何なのか腹も減っていてムカついて睨むと思い出してくる。それは緑沙と大型ショッピングセンターのクレーンゲームでゲットした時の想い出の人形だと。
「思い出してくれたのね。そう、あたしはあの時の人形よ」
「······ほら答えたろ、だからもう」
「死ぬって言うの?」
「ああそうだよ、この世に未練なんかねぇし緑沙に会いてぇんだよ」
「ふ〜ん」と窓枠からピョンとタンス、地面と順に下りていく人形。着地して今度は右へ左へチョンチョンと歩きだして、
「死ぬつもりなんだ〜それは残念ね〜」
「あん? なんだよ」
「緑沙ちゃんから言付かってるんだけどな〜」
「な、なんだよそれ」緑沙と聞いては気になって捕まえようと手をのばすがヒョイッと一歩下がり、また捕まえようとするとやはりヒョイッと逃げる。
「逃げんなよ、おしえろよ」
「おしえるわけないじゃ〜ん」
「このくそ······」
グゥ~ウ、濁りのない美しい腹の音色、それと同時に食い物を食っていないため全身から力が抜けていく。
すると人形は何を感じたのか冷蔵庫の扉を短い両手で歯を食いしばる様に引っぱりようやく開いては物を持ってきた。
「はい、これ」
短い手で地面に置いたのはソーセージ3本。
「おまえ······いらねぇ」
ここで食っちまったら死ねない。グゥ〜、しかしお腹は正直だ。
「じゃっ、緑沙ちゃんの言伝はいいんだ〜」
緑沙の言葉は聞きたい、でも生きるくらいならあの世であいつと一緒に幸せに。
「なっさけな、あんたホントにあの世に逝って彼女が喜ぶと思ってんの? 生きてることから逃げるような奴に」
「それは······」痛い言葉、愛想つかされるかもと不安に思ってきてしまう。自分のやろうとしていることがどれだけ彼女を侮辱しているかは明らかなのに。
「反省したなら、食べなさいよ」
腹立つ人形だが緑沙のことを思って渋々ソーセージを掴み開いて一口かじると、これがことのほか美味い。ほどよい塩味が口の中に広がると身体の中がフルスロットルで動き出し、栄養を取らせるために普段よりも美味しさをアップさせ夢中にさせるように仕掛けてきて、2個3個とあっという間に食べてしまう。
「うまかった······」
「よしっ」
多少エネルギーが巡ると人形を睨みつけ教えろよと問うが、嫌と言うのでさっきとは違い素早く足を捕まえて逆さに吊るし、
「おーしーえーろっ」
「いーやーだっ」
「なんでだよっ」もったいぶる人形。
「嫌よ、あんたまだ信用出来ないもん」
自殺を諦めていないことを見透かされていた。
「んじゃ、どうすれば教えてくれるんだよ」
「外であたしとデートしよっ」
「はぁっ?」
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