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「ああっ、も、だめぇっ、ま、またくるっ、おかしくなりますっ……!」
「おや。どちらで果てるのだ? 前の穴か、後ろの穴か」
「あぁんっ! わ、わかりま、せ……っ、も、もうだめっ、きもちいいのぉっ」
「くっ……、締まりが良いな。そろそろ出すぞ」
「ああ、我もだ……巴、そのまま我らに身を任せていろ。今、おぬしの膣内に種付けしてやるからな」
お二人の言葉に、私はこくこくと頷く。浅い絶頂を繰り返しているのか、電流が流れているかのように全身がぴくぴくと震えていた。
そして、一際深い絶頂に導かれようとしたその瞬間、それまで私たちの情交を放心状態で眺めていた旦那様がいきなり立ち上がった。
「や、やめろ! 巴ぇっ!!」
金切り声と共に、血に塗れた旦那様の腕が私に向かって伸ばされる。
旦那様が、こんなにも必死な表情で私を求めたことがあっただろうか。初めて顔を合わせた時も、祝言を上げた日だって、旦那様にとって私は「嫁」という物でしかなかった。
旦那様にいくら名を呼ばれても、遊んでいた玩具を取り上げられた子どもが癇癪を起こして泣き叫んでいるようにしか見えない。この家に嫁いで三年、旦那様は私に見向きもしなかったけれど、それはきっと私も同じだったのだ。
「喧しい男だ」
「ああ。燃やしてしまおうか」
旦那様の手は、またしても私に届くことはなかった。
白磁様と黒曜様がキッと彼を睨みつけると同時に、赤々と燃える炎が辺りを包む。部屋一面があっという間に燃え上がり、めらめらと熱気が押し寄せてきた。
「ちと早いが、嫁入りの狐火を灯すとしようか」
「嫁、入り……?」
「ああ。巴を我らの嫁として迎え入れる儀式だ。安心しろ、この火はおまえを傷付けることはない」
「うむ。巴の体を燃やすことはないが、余計な虫は一掃できる。一石二鳥じゃなあ」
お二人の間で、私は目を見開いて燃え盛る炎を見つめた。
いつの間にやら、旦那様の声は聞こえなくなっている。代わりに、どこか遠くの方で人々の叫び声が聞こえてきた。屋敷の者たちだろうか。
「はは、当主殿はすぐに燃え尽きたようじゃのう。最後までつまらぬ男よ」
「しかし、この家の者を屠る時が来ようとは……我らを救ったあの男には申し訳が立たんな」
「なに、我らとて充分務めは果たしただろう。それに、きちんと末代まで見届けたのじゃ。文句はあるまい」
燃え続ける火の海の中で、二匹の妖狐の耳がはたはたと揺れている。少し離れた先の床に、黒焦げになった人間の形がうっすらと見て取れた。
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