狐火の夜

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「余所で子を作れば、さすがのおまえも少しは焦るかと思ったが……はっ、他に男がいるんじゃあ、おれに興味がないのも頷ける。嫉妬の一つでもすればまだ可愛げがあるものを」  そう謗りながら、旦那様は私の身に付けていた着物や襦袢を果物の皮でも剥くような雑さで剥いでいく。私に対する愛情など微塵も感じられないのに、必要以上に強い独占欲だけが垣間見えるようだった。  乱暴な手つきであらわになった乳房を掴まれ、小さな胸の頂を爪の先で抓られる。反射的に「痛いッ」と口にすると、今度は硬い拳が頬骨にめり込んできた。 「おまえはただ、おれを悦ばせるためだけに居ればいい。間夫のことを許してほしければ、今後一切おれに歯向かうな」 「ま……間夫など、おりません」 「歯向かうなと言っただろう!! 殺されたいか!!」  少しでも余計なことを口走れば、旦那様は本当に私を殺すかもしれない。  今度は腹にめり込んだ拳の感触を受け止めながら、私はいやに冷静な頭でそう思った。  痛みに呻きつつ、こくこくと頷くと、旦那様は満足そうに頬を緩めた。それから、今度は不気味なほど優しい手つきで私の身体中を撫で回して言う。 「しっかりおれの言うことを聞くなら、おまえにもおれの子を孕ませてやる。そうすれば、母上や屋敷の者たちに石女と安く見られることもあるまい」  下卑た笑みを浮かべて言った旦那様を見て、胸に鋭く冷たい風が吹き込むような心地がした。  やはり、旦那様は知っていたのだ。私が毎日のように、お義母様や屋敷の使用人たちから「子も産めない役立たず」と罵られていることを。狐森家の一員として認めてもらうためには、もう子を産むしか術がないのだと私が考えていたことを。  それを知ったうえで、あえて外で子を作り、当て擦るように私に知らせたのだ。子が欲しければ、おまえも愛想を振りまいておれに従え、と。  私が静かに怒りに打ち震えている間にも、旦那様は私の身体を割り開き、ちっとも湿っていない陰部に男根を擦り付けてきた。  おぞましくて思わず顔を引き攣らせたけれど、旦那様はそれに気付くこともなく腰を押しつけてくる。そしてそのまま潤っていない体内に一物を挿入され、私はまた痛みに呻いた。 「い……ッ!」 「はあ……っ、本当に、抱きがいの無い女だ。身体が鈍感なら、せめて口だけでもいじらしい台詞を言えば可愛がってやるというのに」  今日に限らず、旦那様との交わりはいつも痛くて苦しかった。  子作りのためと思ってこれまで耐えてきたのに、妾に先を越され、挙げ句の果てには有りもしない不貞を咎められ、今こうして仕置きのように抱かれている。  ──なんと、惨めなことか。  人形のように揺さぶられながら、この家に嫁いできてからの数々の辛苦を思い返して、私は黙って涙を流した。
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