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狐火の夜
その夜、燃え盛る火の海の中に私はいた。
不思議とちっとも熱くはなくて、私はただ、二人の男──いや、二匹のお狐様によって与えられる快楽に身を委ねていた。
「巴、辛くはないか」
「はは、辛いわけがあるまい。のう、巴。我らに抱かれて嬉しいだろう? 我らほど、おまえを愛するものは居らぬからな。非道な旦那のことなど忘れて、我らの愛を存分に浴びるといい」
己の胎内で蠢くふたつの熱を感じながら、私は何度目かも分からぬ絶頂に辿りつく。あ、と小さく喘ぎを漏らすと、前後から艶やかな吐息が聞こえた。
絶頂の余韻に浸り息を切らす私の耳元で、お狐様たちがまた囁いた。
「大丈夫だ。おまえを脅かす人間たちは、もういない」
「ああ、幾人かは逃げおおせたようだが……おまえの旦那は、もう死んだ。今ごろは灰にでもなっているだろうよ」
めでたいのう、とお狐様は笑った。
彼が笑ったからか、私の心にもふつふつと喜びが沸き起こってくる。ふたりのお狐様たちとぴったり体を重ね合いながら、周りを囲む炎に見惚れた。
嫁入り道具の箪笥に、お気に入りの着物や簪。嫁いできたこの家、それに仕えていた者たち、義理の母。
そして、私の旦那様。
すべてを焼き尽くす炎は、今まで見たどんなものよりも美しかった。
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