ファンタジー

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「ねぇお父さん」優華が言い出しにくそう俺を見た。よほどマシンが気に入ったのか、毎日のように顔を出すようになった。 「なんだ?」  優華はふっと俯き、内緒話でもするように耳元で囁いた。  生死を分けるような出来事ばかりではなく、もっと小さな事象でも、世界は【if】の分岐を枝葉のように広げているのではないだろうか。Aが起きる世界とBが起きる世界とCが起きる世界。はたまた何事も起こっていないように見えるZの世界。  内外の要因さえ不明瞭な些細な事柄、あるいは取捨選択の余地さえなさそうな場面でもそれは起こっているのではないのか。すべての道はすでに存在しているのでは。 「日時は分かるか?」 「七月二十四日。午前中だけど時間は確かめてみる」 6f7f37f9-80ea-45e1-ba6d-58ec532c04cc  翌日、正確な時間がわかった。 「行くぞファンタサイ号!」俺の声に優華が頷いた。  蝉の声がした。両手を膝に呼びかけた優華の向こうで、赤い髪ゴムでツインテールに結んだ女の子がキョトンと振り向いた。この愛らしい命が、わずか後には失われたのか。 「坂上さんちの絵美ちゃんだよね」  眩しそうな顔でコクリと頷いた。 「どこ行くの?」 「お母さんのおつかいで油揚げ買いに行くところ」  そのとき歩行者用の信号が青に変わった。絵美ちゃんの二の腕にそっと触れる優華。
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