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新しい研究室
「完成したのね」研究室に入ってきたのは優華だった。
「うん、座ってみたら」
「あ、ディスプレイが大きくなった」
「場所と時間を設定すれば画面も変わる。マシン本体を起動させなければ人体の移動はないから自由に見たらいい」
「了解! 頑張るのよ零号機。あなたは死なないわ……私が守るもの」その通りだよ優華。「がんばれ綾波レイ」
「かなり正確だわ」
シートに座って見た画面には雪が舞っていた。
「行列……その塀は武家屋敷?」
「江戸城の桜田門」
「桜田門外の変? 井伊直弼が死ぬところ?」
「この人、そんなに悪い人でもなかったんでしょ?」
「吉田松陰の首を刎ねちゃったしね。ちょっとやりすぎた」
「ほら来た始まった! テレビの時代劇と全然違う!」
「そりゃそうさ、重いから振り切った刀で自分の足を切った人も多いらしいし」
「凄いねこのタイムマシン。これが時空を飛んでいくんでしょ」
「マシンは……だって優華は」知ってるじゃないかと言いかけてやめた。ここにいる優華は俺に会いに来た記憶を持ってはいないのだ。
「このマシンで出現したら騒ぎになるんじゃないの」
「いや、移動するのは人だけだ。制限時間は三十分。その三分前に頭の中に警告音が聞こえる。強引に連れ戻されるから人目のないところへ隠れないとマズイ。移動先はモニターを見ながら設定すればいい」
「ねぇお父さん」
急に改まった口調に、隣に座る娘を見た。
「お父さんだよね、小学校の三年生のとき声をかけてきたの。このマシンを使ってみて、いま謎が解けたの」
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