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あなたはどこにいるのですか
腕時計を見て、壁の時計と見比べた。
駅のデジタル表示は私の腕時計と16分ずれていた。
慌てて出て来たものの、30分の遅刻だった。
舌打ちしたい気持ちだ。何かの拍子にリューズの突起を触ってしまったのか。いつ買ったのかわからない見慣れぬ腕時計は、時々時間がずれては私を困らせるのだ。
祈るような気持ちで相手を待つ。お願い来てください。電話してくれればいいのに。
ごめんなさい。約束の時間に遅れてしまいました。電話ください。いま駅にいます。
そうメッセージを送信する。
約束の彼の顔を私は知らない。横顔が小さく映っている写真しか送ってくれなかった。
わたしは何枚か送ったのに彼、たー坊はかおをはっきり見せてくれなかった。私の送ったものは加工はあるが美肌モードにしたくらいなので詐欺写メではない。だから、私を見つけられないことはないはずなのだけど。
私は顔を上げて見つけてもらえるようにうろうろと歩いた。
それらしい人が居るのか居ないのかもわからなかった。
たー坊と私、ナポリンはネットのグループで知り合った。
『別れを経験した大人の会』
怪しい響きに聞こえるかもしれないが、出会い目的での入会は禁じます。そういう規約のあるまじめな会で、お互いの経験や辛さを吐露しあって前向きになれるようにという趣旨のグループだった。
メンバーはそれぞれに配偶者や恋人、肉親や親友との死別や離別を経験していた。
私は同棲し両親も結婚するものと思い、私もそのつもりでいた相手から裏切られ別れた。
たー坊は結婚して子供もいたものの離婚調停をしながら家庭内別居中だった。
私はたー坊の話を真剣に聞き、たー坊も私の話を親身になって聞いてくれた。
一つの連帯感が生まれていた。
しかし、そういうグループというものは結局メンバー次第で良い時はよいのだが、崩れ始めると大変で、ぐちゃぐちゃになって解散した。
解散してしまえば規約も関係なく、以前から気になっていたたー坊と私はリアルで会う約束をしたのだった。
そして今日私は会うことに迷いながらも、わざわざ新幹線に乗って会いに来ると言ってくれたたー坊と待ち合わせをしていたのだ。
そんなにしてまで知りもしない女に会いたい、私に会いたいと言うのならば私も冒険してみよう。
そんな気になったのに
なぜ遅刻してしまったのか。
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