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その後しばらくグダグダしていると、看護師の人に呼ばれて、トレーニングセンターなるところに連れてこられた。いわゆるリハビリ施設だ。起きた初日にやるのか、、、とげんなり
する気持ちもあったが、まあ一刻も早く退院したいから早いに越したことはない。
・・・いや待って?初日だよね?何でこんなにハードなん?
スタートから1時間半、わずかな休憩時間に、完全にオーバーヒートしている息を何とか整える。ニッコリ笑顔で待つリハビリお姉さんの方はとてもじゃないけど見る気分じゃなかったので、ドアの窓からぼんやりと外の景色を眺めていた。
気が付けば日はだいぶ傾き、廊下はほのかに橙色に染まっていた。その橙を塗りつぶすように近づいてくる、長く伸びた人影。そして視界に現れる、今朝ぶりの面影。
「お疲れ様です!」
気がついたら、ドアを開けて廊下へと身を乗り出していた。そこにはやはり、急な登場に驚いたような表情を見せる、お兄さん。
「また来てくれたんですね!ありがとうございます!仕事終わりですか?」
「う、うん。そうなんだ。案件が早く片付いてね。今は、、リハビリ中だよね?」
「そうなんですよ!聞いてください、ひどいんですよ!まだ初日だっていうのに前進のストレッチから始まって、腹筋、背筋!ランニングマシンにビリーズブートキャンプですよ?普通最初は歩行補助バーみたいなやつの間を1往復して、よくできましたね!ってやつじゃないんですか?それがあのお姉さん!まさに鬼ですよ!オニ畜です!」
「ははは、、、お疲れ様。頑張っているみたいだね。ところで・・・もしかしなくても、まだ途中なんじゃない、かな?」
お兄さんの目線は、私から少し逸れ、後ろに定まっていた。恐る恐る後ろを振り向くと、
笑顔で手招きする鬼えさん、じゃないお姉さん、、、
冷静にとんでもない暴言を吐いたことと、またしてもハイテンションモードになってしまったことのダブルパンチで、夕日で橙となった顔が、紅へと染まる。
「あの・・・スイマセン…」
「いやいや、元気な様子が見られて何よりだよ。残りのメニューも頑張ってね。」
そういうとお兄さんは、サッと右手を挙げ、顔の隣で構えた。
無意識、だった。それが相手の意図したことだったかはわからない。私の右手はその構えられた手のひらに吸い込まれていった。
パンッ
乾いた音が辺りに響く。まさしく大人の男性を思わせる、がっしりとして少し乾燥している、そのつめたい手。でも、相手のことを思いやるように、こわばらず、優しく、包み込むような受け止め方。私は、知っている。何回も、何十回も、何百回も。
バチッ
頭の中で、何かが鳴った気がした。
その直後、まるで糸でも切れたみたいに、私は床へと崩れ落ちた。
お兄さんが駆け寄ってくるのが見える。
頭が、痛い。そうか、わたしは、、、きみは、、、
「だい、、き」
目の前が、闇に覆われた。
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