こころおぼえ

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峠は越えたが、まだまだ暑さの続く夏の夜。辺りにはサーサーと雨が降り注ぎ、日中の厳しい残暑を多少なりとも緩和させていた。一組の男女が所々街灯に照らされた路地を進み、帰路に就いていた。 「あーあ飲み行きたいなあ。タピオカ」 「あー、あのカエルの卵みたいな…イテッ!」 「可愛い彼女の前で可愛いドリンクを爬虫類に例えるな!オブラートドロドロか!」 「ごめんて!でも、何かめっちゃ流行っているらしいね」 「そうよお。イマドキ女子の必需品。一度は経験してないとJKじゃなくってよ?」 「・・・ってことは朱音はJKではないと…イテテ!」 「うるさい!大会が近くてそんな暇がなんだからしょうがないでしょ!」 「もうしわけないでございます…。まあそしたら、大会終わったら原宿まで飲みに行こうよ。」 「ほんとう!?やったあ!おごり?」 「うーん、それは大会の結果次第かな?」 「よっしゃやる気出てきた!あー、めっちゃ足軽くなってきた!今なら市記録更新できる気がする!」 「ははは、頑張ってね、、、っと、もう家の前か。」 気が付けばそこは愛しのマイアパートの前。本当にあっという間。時間って絶対同じ速さで流れてないと思う。 「そしたらまたね!大会まで体調崩さないように!」 そういいながら、大輝は手を顔の横辺りに持ってくる。私はいつもの名残惜しさを感じながら、それを置きざりにするように、大輝の手に向かって手を振り切った。 パンッ… 微妙にしまらない音が発され、それをきっかけとして、大輝は手を振りながら帰路へと着いていく。…大輝ってハイタッチ苦手よね。いや、ハイタッチ苦手ってなんだよって話なんだけども。 それは空回った優しさ。きっと私が痛くないように、とか考えて、結果ふにゃふにゃ~と構えている。でもそんな不器用な優しさ。がっしりとしていて、あったかく、しっとりとした手の感触。手を通じて気持ちが繋がるような感覚。そういうのを全部含めて、この行為、とても好き。
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