女優月島緑子の臨終

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 父は通夜の直前に帰ってきた。  棺桶行きリストのものはとりあえず全部集まったと伝えると、やはりその物たちの意味が分からず、首を捻った。 「ま、昔から変わった人だったからな」 「なんか、会った人みんなが同じことを言ってた」 「そうだろうな。隼人がまだ子どもの頃、節分をちゃんとやろうとか言い出してさ。世の中の修羅を早く教えなきゃいけないとか言って、池袋で怖い人を雇ってこようとしたもんな」 「なにそれ、ヤバ」  父はその時のことを思い出したのか、頬を緩めた。  葬儀会社の人に聞いたところ、なんと全て棺桶に入れられないと断られた。  CDやフィギュアは難しいかなとは思っていたが、本も燃え残る可能性があるということでだめだったのだ。  せっかく集めたのに、と堤さんも少し残念そうだ。 「とりあえず、火葬の直前まで入れときます?」 「そうだね」  堤さんと二人で棺桶に入れる。  結局何の意味があったのだろう。というか、なぜこの五人だったのか。  皆、元カレ? 俺は違うけど。  俺は何気なしに、集めた順に物を並べた。 ルーマニアの旅行本、手紙が届くまでという小説。しょうがないほどというCD、虚数の神秘、そして皆川ラピ。  虚数の神秘はもらって帰ろうかな。ちょうど習ったところだし。  考えながら見つめていたら、ふと気付いた。虚数はi。 「あ」  固まった俺を訝しげに堤さんが覗き込んでくる。 「堤さん、分かりましたよ」 「なにが?」 「これの意味」  それから物の順番を入れ替える。  フィギュア、参考書、CD、小説、旅行本。 「頭の文字だけ読んでください」  堤さんは少し考えて、それに気付くとはっとして固まった。 『皆、あいしてる』  最後の緑子さんのメッセージ。  やはり棺桶行きリストには意味があった。  メッセージの順番は、きっと出会った男の順だ。すると堤さんは、緑子さんが最後に愛した男なんだ。 「普通に分かるようにメッセージを残してくれたら良かったのにね」  そう言って、隣で動かなくなった堤さんに目をやると、瞳の表面に涙の膜が張るのが見えた。  俺は見なかったフリをして一歩下がった。  やっぱり、ただのマネージャーじゃなかったんじゃないか。  ♢  通夜と葬儀にはたくさんの人たちが来た。元山さんと加藤専務もだ。  もう忘れられた女優だと思っていたのに、芸能活動年数が長いからだろうか。一部には泣いている人もいたが、ほとんどの人はちょっとおかしな緑子さんの思い出話に花を咲かせていた。  棺桶に入れられなかった物たちは堤さんとうちで引き取ることになった。  堤さんと相談して、メッセージの答えは二人だけの秘密にすることにした。  まあ今後機会があれば、他の三人の男にも教えてやろう。  俺は火葬場の煙突から高く登る煙をぼんやり見つめた。
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