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早くも頭の中を彷徨い始めた意識の中、メロスは考える。 私は、明らかに風邪を引いている。これまで経験したことのないだるさが全身に取り憑いている。本当にしんどい。走ってる場合ではない。死にかけている。 しかし診察を受けるには、走るしかないのだ。妹のパソコンを救うには、走るしかないのだ。私の体に住み着き、繁殖するウイルスよ。妹のパソコンを人質にさせた、憎きウイルスよ。お前を倒すため、私は走り続ける。走り続けるのだ、メロス。 メロスはそのようなことを考えながらも、彼の身体は着々と限界に近づいていた。朝食を口にせず家を出てしまった故の抑えきれない空腹も、いっそう輝きを増す太陽の熱に奪われた喉の潤いも、一文も持たないメロスにはどうすることもできない。 目の前の信号が赤を示し、メロスはようやく足を止めてすぐ横の電柱に抱きついた。全体重をそれに預け、激しい呼吸の失速を待つ。するとそこに、一人の少女が現れた。 「ねぇお兄さん、大丈夫?」 純真無垢な少女の声は天使の声の如くメロスの頭の中を駆け巡る。メロスは思わず第一声を口にした。 「き、君。僕のために、食べ物と飲み物買ってきてくれないか」 先走るな! メロス。 「え……う、うん、分かった」 少女は初対面の大人からの思わぬ頼み事に一定の恐怖を感じた。しかし大きく声を立てながら呼吸をし、足を震わせながら泣きそうな顔で電柱にしがみつく彼の姿を前に、恐怖はすぐに哀れみへと変わったようであった。 あまりにも先走った行動をしたメロスであったが、そのことを省みる余裕など彼には無い。じっと動きを止めていると、体の異常が強く感じられる。今にも地中に沈んでいってしまうのではないかと思うほど全身が重い。蒸発してもおかしくない気温。強まる頭の痛み。もう一度言いたい。走るな! メロス。
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