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メロスは再び走り始めた。体調不良は悪化する一方であり、意識が一瞬無くなるときもある。それでもメロスは走り続ける、走るしかないのだ、診察券と妹のパソコンを手にする為には。
呼吸もままならず、咳をすれば同時に血も口から噴き出し、靴の底は半分無くなり、目を瞑れば簡単に走馬灯が見え、どちらが右なのか分からなくなっても、それでもメロスは走った。
走れ、メロスよ。真の勇者、メロスよ。私は散々家族に迷惑をかけてきた。仕事をしないまま間も無く三十歳を迎えようとしている。母は我々二人の子の面倒を見ながら家事を全て行い、父は仕事で世界を駆け回りながらも頻繁に家に帰ってきてくれた。ずっと手助けをしてくれている妹には、感謝してもしきれない。
私は、変わるしかないのだ。妹のパソコンも、自分の身体も救えない男が、家族を支えられるわけがない。
妹よ、信じてくれ! 私は必ずお前から保険証を貰い、そしてお前のパソコンがナースにぶち壊される前に病院に帰ってみせるぞ! 走れ! メロス!
メロスが心の中でそう叫んだ時、彼は自分の体がそのまま前に倒れていくことに気が付いた。
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