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メロスは熱が出た。
必ず、かの邪智暴虐のウイルスを除かねばならぬと決意した。
「じゃ私このまま会議行くから。帰るときはまた電話して」
「あぁ。ありがとう」
バタン。
メロスは小さな鞄を持って車を降りると、そのまま病院に入っていった。この病院が家から一番近いが、それでも車で二十分はかかる。妹に車で送ってもらう他に、ここまで来る術は無かった。
メロスには常識が分からぬ。それ故、二十九歳の今までに、自分の力でお金を稼いだ経験は皆無であった。四つ下の妹は早いうちから企業に勤め始め、数々の功績を残したうえに二年前、仲間と共に自ら会社を起業。無職の兄を養うのには十分すぎる資産を手にしたのだった。
この妹は本日、重要な会議を控えていた。朝、まだメロスが寝ている中静かに一人で食パンを頬張る妹。しばらく経って目を覚ましたメロスであったが、そのメロスの顔に、殆ど色は無かった。顔面蒼白の極み。すぐさま妹はメロスの脇に体温計を挟んだ。38度9分。
「お兄ちゃん、どう見てもだるそうだし、病院行こう。準備して」
「大丈夫だ、少し熱があるだケシャーッホ!」
「ほら聞いたことない咳してるじゃない。会社行くついでに乗せてあげるから、ほら早く」
メロスは妹の言う通りに行動した。そもそも38度9分という数値が正常なのか異常なのかすら分かっていなかった。
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