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全力で走る。病院の中だけど気にしない、教えてもらった病室に一直線だった。思い切り病室のドアを開けると、ベッドに腰かけた母と顔色を真っ青にした父がいた。その近くには警察官が二人。
私を見て母の目からぶわっと涙があふれる。
「おかあさん!」
駆け寄るとお父さんがほっとした様子で話しかけてきた。
「大丈夫、怪我はないよ。腰が抜けちゃって動けなかったから念のため病院に来たけど問題ないってさ」
「お父さんが真っ青な顔してるからびびったじゃん」
「いや、これはお父さんも全力疾走したら運動不足がたたって気持ち悪くなってさっき吐いちゃっただけ」
その言葉にふえ~っとその場で私も屈んだ。警察官が娘さんですか、と聞いてくるが半分も頭に入らない。
「長瀬さんの家に押し入った強盗はお母様を見つけることはありませんでしたので大丈夫ですよ。あなたが警察に連絡をしてくれたおかげで取り押さえることもできました」
お母さんが泣きながらありがとう、ありがとうと言ってくる。よしよし、と背中をさすって安心させた。警察が申し訳なさそうに私達に話しかけてくる。
「一応、聞き取りをしている最中でしたので娘さんもお願いします。家に強盗が押し入り、お母様はクローゼットに隠れラインで助けを呼んだ、それがあなただった、間違いありませんか?」
「はい」
どうぶつの林をプレイしていてインターホンを数回無視していたら、強盗が留守だと思い窓を割って侵入してきたらしい。慌ててクローゼットに隠れるも、かなり乱暴に辺りをひっくり返し始め怖くて声が出せなかったのだそうだ。
音を出したら見つかってしまう。電話で助けが呼べないから警察も呼べない、私に助けを求めようとした。
「母からのメッセージで気づいて」
言いながら私はスマホを見せる。その画面を見て、警察官二人とお父さんが全く同じタイミングで首を傾げた。
「タコライス」
「タコライス……」
「タコライス?」
不思議そうに三人が言う。そりゃそうだろうな。
「母は慌てると予測変換のまま送っちゃうんです。た、で始まる慌てる要素って何だろうって思ったらもう、“助けて”しかないかなって。強盗とか空き巣が増えてるって言ってたし、そんな状況で返信なんてしたら音が鳴っちゃうからまず警察に」
私の言葉に三人とも目を真ん丸にした。お母さんは泣きながらあはは、と笑う。
「将来名探偵だな」
お父さんの言葉に警察も小さく噴き出して笑う。とにかく、大変なことにならなくてよかった。
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