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0.序
皺ひとつないシーツに覆われたふかふかのベッドの代わりに、上等な革製のアンティークソファ。
情事をするには少々狭いが、立ったままするよりは随分楽だろう。
ネクタイを外しながら近づいてきた人物に笑いかけ、千早は息を弾ませながらそこに横たわった。
ギシ、という古い音を立てて、火照った体が沈み込む。
反転した世界で天井を見上げると仕事部屋特有の、LEDライトの煌々とした明かりが眩しくて、思わず目を細めた。
それに気づいたのだろう、息を荒げて覆いかぶさろうとした高斗がまどろっこしそうに舌打ちして電気のリモコンに手を伸ばしたので、千早は思わずその手を掴んで止めた。
「消さないで下さい」
「さすがに、眩しいだろ」
彼の声にはまるで余裕がなかった。千早は今、抑制剤を飲んでいない。
室内は、ヒート期特有の甘いようななんともいえない匂いで満たされていた。
欲望に満ちた、まるで飢えた獣のような目で見降ろされ、千早はゾクゾクと背筋を震わせた。
「いいんです。このままが好きなので……はやく……っ」
「はぁ、ほんとお前って筋金入りだよな」
心底呆れたように呟かれた言葉を聞いて、千早は安堵した。
良かった。気づかれてない。
本当は、恥ずかしくてたまらない。
ヒート中の醜く発情した顔なんて、誰にも見られたくない。
だがそれ以上に暗闇が怖かった。
こうして押し倒され、覆いかぶさられるとより一層怖くなる。
だからちゃんと、明るい中で高斗の顔を見て安心したかった。
相手が彼なら、何の不安もないから。
「まあ俺としても明るい方がいいけど」
高斗はそう言って舌で唇をペロリと舐めて笑うと、フェロモンを放つ首筋に顔をうずめた。
「んっ……」
熱い舌に舐めまわされると、体の奥からぞわぞわと何かが這いまわるような快楽を感じ、無意識に内腿をこすり合わせた。
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