18.われても末に

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「疲れただろ。とりあえずソファとか楽なとこ座ってて」 高斗はそう言うと、ガラステーブルの上にハーブティーやクッキーなどをかいがいしく用意してくれた。 いつもソファに座ると高斗はなんとなく習慣でテレビをつけていたが、今日はつけなかった。 きっと、千早に配慮してのことだろう。無音では居心地が悪いと思ったのか、彼は珍しく、スマホをスピーカーにつないで音楽を流した。 「千早が好きな音楽ってあんまり知らないから、適当に有名なやつのプレイリストな。今度好きな音楽ジャンル教えてくれ」 「あ……僕、あんまり詳しくないので。なんでも好きですよ。ありがとうございます」 高斗が適当に、と言って流したのは、千早でも聞いたことがある古い有名な映画の曲だった。 「なんでしたっけ。これ。何回か金曜ロードショーで見た気が……」 「スタンド・バイ・ミー」 「そうだ!」 思い出した、と言って笑うと、高斗は少しほっとしたように笑った。 「あと、本とか……雑貨のとか旅行雑誌とか……色々あるからくつろいでて。あー……夕飯はデリバリーで良い?」 「はい、もちろん。すみませんありがとうございます」 ぎこちないけれど、彼の気遣いと優しさが伝わってくる。 隣同士で腰かけて、本や雑誌を読み、互いに何も話さず、スタンド・バイ・ミーが流れる静かなリビングで、静かな時間を過ごした。 それからの日々も、高斗は優しく千早を気遣ってくれ、傷痕に何も触れないでくれた。 夜中にパニックを起こして叫んでも、本を読んでいる最中に突然過呼吸を引き起こしてソファから転げ落ちても、心配して伸ばされた手に怯えて払いのけてしまっても。 何も言わずに安定剤を飲ませて、落ち着くまで背中を撫でてくれた。 あの場所にいた時、千早の夢はずっと、高斗と本当のつがいになることだった。そして千早は誰ともつがいにならずに出て、今再び高斗の元に帰ることが出来た。 それなのにどうしてだろう。その夢は、あの時よりも遠い場所に行ってしまったような気がした。
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