2人が本棚に入れています
本棚に追加
暗闇だ。
目の前は真っ白だけれど、だからこそ真っ暗なのだ。
何も浮かばない。見えない。だから、進まない。
空っぽになった心と頭をふんわりと感じながら、空に見えるあなたの幻に手を伸ばす。
触れ続けたかったその温もりに、わたしも連れて行ってと、手を握る仕草と抱き締める仕草の先ににあなたの面影が感じられるようで、束の間の幸せを感じる。
それでも進まない物語に、空っぽになった体に浴びるように、好きな物語の世界に浸かりたくなって、テレビの電源をONにする。
足りない。
足りない。
これじゃ足りない。
目から耳から肌の毛穴からするすると染み込んでくるそのエキスに、かつて感じていたあの人の温もりには至らず、あぁまるで暗闇だ。真っ暗だ。何も映っていないテレビ画面のようだ。
プツン。入れたはずの電源が落ちる。
膝を抱えて待っている。
朝が来るのを。
ギュッと膝を抱えて座る。
夜が明けるように、またあなたに触れられる物語が再開するのを待っている。
星ひとつの明かりもない、暗闇の中で空を仰ぎ手を伸ばしながら。
最初のコメントを投稿しよう!