【2020/05 葬列】

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おれたちのような人間がパクられると、逃亡や証拠隠滅の可能性がなくもないだろうということで保釈は到底叶わない。現状、おれはあくまでも重要参考人扱いだがそれでも同じだ。ヤメ検弁護士がついていたところで限界はある。今日も弁護士先生の到着を待って取調室だ。 重要参考人とはしていても、早いところ容疑者にしてしまいたいのはわかっている。他に指示を出せる人間はいないと思っているだろう。…まあ、実際したけど。 担当刑事数名が入室して、最初に確認のため個人情報を暗唱させられる。 「徳永文鷹。出生名は小角文鷹。小さい角と書くのでツに点。生年月日は1978/5/25、本籍地は東京都墨田区江東橋4-**-*錦糸町コートハウス104、現住所は東京都港区芝浦1-**-**の●●ビル3Fですが殆ど帰ってません、実際には征谷直人私邸にほぼ常駐勤務、所在地は東京都江東区有明1丁目*-*-**新有明シティスカイタワー1212」 どんなに粘ろうと供述内容は変わらない。カマかけてハメようとしたり威迫しようとすれば弁護士先生が「おやおや、そんな事していいんでしたっけ」と止めてくれるから、何の後ろ盾もなくやらかしちゃった一般人にするように高圧的に迫ることはできない。 しかもそもそも、おれは諜報のために買収した人間を此処の署の組対にエス(組織内通者・情報提供者)として複数提供してきてこれまで組織を裏切ったり寝返った人間の情報、そいつらのやっていることや拠点や取引場所にしている場所を逐一報告し、今後起きうるリスクについても散々警告していた。 いくらこっちが移動時の警備を強化してたところで、組織に属する人間らは今や協定で自発的な銃火器の使用は禁じられている。だから地域の警戒警備を怠られたら組織に属さずに堂々と汚い商売してる連中は地位をひっくり返すために寄ってくる。 片岡はオヤジ…直人さんに散々上納金取られて遣われても結局有事の「手上げ」に間に合わず出世コースから脱落したことで臍を曲げて、そういう連中に加担するようになった。しかも情けないことにそれ以前からこちらの情報を売って金を借りて、その金で上納していた。 こっちでも出世できなかったけど、向こうじゃ更に下っ端の下っ端だ。それを挽回するために片岡は無茶をした。その結果。 「率直に訊く。片岡やれって指示したのはお前だろ」 「証拠はあるんですか?誰かがそういうこと言ってたんですか?」 そう、直人さんを撃ったのは片岡だった。そして、片岡はもうこの世には居ない。 処理方法は徹底させた。装着されていた歯科資材などの治療に使用された金属類や貴金属は全て解体時に外して酸性の洗剤で洗浄し、加熱溶解して板状にして不燃ゴミに出した。他の金属ゴミとともに圧縮して運ばれ破砕処理のうえ精錬に回される。 皮膚や毛髪や爪は薬品で溶解して中和した後で、肉はミンチにして、貴金属についていたルースや骨も焼成してから粉砕し分散させて遠方の海洋に散布させた。排水溝に流すようなことはさせてない。 EZZ(排他的経済水域)境界ギリでマズイものの密売や背取り(転売)していてうちに借りがある連中とか、密猟だの人買いだの、海で悪い商売しているやつは少なくない。そもそも海や港湾の仕事自体がこの世界と関わりが深い。海保だって他国と領地が差し迫っている地域ならともかく、密猟されても追い込むことも出来ず、沿岸住民の日常生活のための小規模の採取に目くじらを立てて目を光らせて他はガバガバ状態だ。 島国で海に囲まれてることに危機感が薄いこんなゆるい態勢なのに態々陸で、下水や土ン中捨てるやつはド素人かバカだ。 況してや直人さんは大陸で裏稼業してきて文革で国を逃れて香港台湾経由で日本に流れてきた人間で、日本の組織に入り込んで投機と商才でのし上がったが元は根っからのチャイニーズマフィアだ。 中華系の犯罪組織やその連合、中国系アメリカ人組織などにもツテがある。征谷直人という名前は勿論偽名であり通称だが、そもそもこの国に入国するために使った旅券だっておそらく実際の名前ではない。 本当の名前も素性も生い立ちも、由美子さんでさえ知らない。
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