【2020/05 凱旋】

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「そんな言い方する人も先輩以外ないですよ」 そう、そんなつもりで言ったつもりはなかった。思わず吹き出しつつ言葉を返すも、身支度でもしているのかその後返信はない。 おれは台場のホテルで缶詰になる前提で買っといたインスタントの食糧や持ってきたお菓子は小林さんが食べ切れない分や好きじゃないものは現場で分けてほしいことを付箋に書いて持ってきたときのダンボール箱に貼った。 そして着替えてみっともなくない程度に髪型を落ち着けて、鞄と部屋の鍵を手に発とうとしたとき、ちょうど小林さんが戻ってきた。 「あ、ちょうどよかった。おれ、もう行くから。現場の先生方によろしく」 「わかりました。便、ありますかね」 さっき見た限りでは通常運行に戻りつつあったし、状況が状況だけに利用率は下がってるらしく空席もあった。 「大丈夫、もし急に飛ばないって言われてもなんとかして帰るよ」 そう言って鍵を差し出すと、受け取って小林さんが言う。 「戻ってからまた、危険に晒されるようなことがなければいいんですが」 不安そうな顔をしている。全部は言えないけど、現状言えることだけおおまかに伝えた。 「もう事件は収束しつつあるみたいなんだ。おれももう、ああいう世界の人らと関わる必要はないし、大学行かなくてもやらなきゃいかんこといっぱいある、暇がないよ」 「でも、昔から、そう言いながら無茶なことばかりしてたじゃないですか。わたしが出会う前から、ずっとそうですよね?」 うん、それはそうだ。 「単純に、じっとしてられないんだよ。知りたいことや見たいものが多すぎるんだ。一度全部失ったの取り返すくらいには執着強いしね。じゃあ、そろそろ行くよ」 扉を開けると、戸口まで小林さんが見送る。 「道中お気をつけて」 「ありがとう、わかってる」 廊下を曲がり、階段を降りてフロントからハイヤーを頼み、迎えに来た車で空港に向かった。その間、車内で必要な相手に連絡を入れる。 月曜の朝の出勤時間だし、メッセージ送ったってみんな悠長に見てる暇はないだろう。ハルくんに至っては週末の泊まり勤務がまだ残務処理で明けてない可能性が高いし。仕事関係の送付先にしたって、定例業務が一段落してから返すだろう。 おそらく乗るであろう便が到着する頃にようやくメッセージに気がついて徐々に連絡が返って来る感じになるんじゃなかろうか。 おれはまだ疲れと眠気が抜ききれない怠さがしんどかったので、空港に着くまで仮眠をとった。運賃をカードで支払って降り、そのまま直近の便に乗りたいことをカウンターに行って伝えて、それもカードで決済してさっさと保安検査に向かう。 時間ギリギリなので検査を通過してから搭乗口までは大急ぎで向かい、なんとか予定の便に乗って席に着いた。電子機器を機内モードに切り替えるべく端末を取り出すと、長谷から返信が来ている事に気づいた。しかし、今返信することはできない。機内モードに切り替えた上で内容に目を通す。 「先生、戻ってこられるんですね!お迎えに行ったほうがいいですか?」 お迎えって、今月は平日勤務で日勤なんじゃないの?無理でしょ。彼氏が帰ってくるからお迎えに行きたいので早退しますって言って通じる仕事や職場じゃないでしょうに。 あ、でも、鑑識課の直の上司すっ飛ばして飯野さんに相談していいよって飯野さんが言っちゃったらいけちゃうのか、もしかして。いや、でも、そんな甘い世界じゃなくない?流石に。まあいい、とりあえず向こうの空港ついたら返信して出方を窺おう。 そう思っておれは飛行機がスポットアウトするのを待っている僅かな時間で寝落ちてしまった。次に目が覚めたらもう着陸に向けてシートベルト着用サインが出ている状態だった。
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