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おれは、その日の晩から繰り返しその時のことを夢に見て飛び起きるようになり深く眠れず、食事を吐き戻すようになった。給食だけは落ち着いて食べることができたし、吐かずに済んだので命綱だった。
そして大人の男性が怖くなり、実の父親でさえ近づかれたり触られるのが怖く、汎ゆる場所で言葉が発せなくなった。それどころか悍ましく感じて触れられたものを捨てたり、体の部位を荒れるまで洗ったりもした。
当然あのような異常な集団と、その一員である母親ともまともに関わりたくなくて、放課後は下校時刻まで一緒に遊ぼうと誘ってくる友達も居たのでギリギリまで遊び、帰宅後は目標ができたから勉強すると言って極力部屋から出ずに過ごすようになった。
どうにかして家にいる時間を減らしたくて、朝晩練習があって週末も練習試合があるようなできるだけハードなクラブ活動に入りたいと思ったが、クラブ活動は4年生からだと言われ断られてしまったのだ。
他にも地域のスポーツ少年団にも相談したが親の許可がないと入れず、いろんなスポーツのプロチームに子どもが入れるチームがないか問い合わせてもやはり今は無理だと言われてしまった。
「3年生もしくは4年生の時の選抜で3次試験まで通過する必要がある」「お金もかかることなので親に許可を取る必要がある」と知って、更に深く落ち込んだ。
学校内には地域ごとの子ども会があったので、その担当の先生にも相談に行った。
しかしそこで「お母さんが拒否したのであなたのおうちはPTAに入っていない。地域の自治会も婦人会も入っていない。なので校内ではその地域の子ども会に入れているが、実際には子ども会も入っていない」と知らされた。
更にそこでも「もし子ども会に参加するなら会費とか行事ごとの出費もあるので親に許可を取ってほしい」と言われ、子どもってなんて不自由なんだろう、と思った。惨めだった。
しかも、それまでは一応そこそこ一緒に体を動かして遊ぶような友達も出来て、近くの席の子や班の子とも、みんなそれなりに仲良くやれていた。だけどあの儀式の日のあとから母親は女子と仲良くしないようにと強要し始めた。
それまで当たり前に遊んでいたのに、急にそんなことを言いつけられてどうしていいかわからなくなり、段々と女の子と関わるのを避けるようになった。急によそよそしくなって不審がられて、陰口を言われた事もあった。悲しかった。
あとは日常で同級生と何気ない会話を重ね、他の子の家族の話や日頃の遣り取りを知るほど、自分の家との違いが、自分の家の異常性がまざまざとわかるようになって、おれは聞き役に徹するしかなかった。
うちに遊びに来たいと言われても断るしかなくて、逆に友達の家に遊びに行っても厚意で出してくれたお菓子や嗜好品は宗教の教えで禁じられてる物もあり手がつけられなかったりして、申し訳なく思うこともあって行くのを避けるようにしてた。
週末は変わらず朝から母親に宗教の地域の集会所や教会或いは拝殿などに連れられて、そこで祈りを捧げ、講話を聞いて、教えを反芻し、聖餐をとり、勉強会に参加したり、俗世での過ちを告白させられたりした。
それ以前から一般社会に溶け込んだ生活はできていなかったが、あの儀式を境により永遠の神の国へ無事導かれることを祈念し、一層俗世生活に距離を置き、常に神を思い俗世での行いを悔い改め暮らすことが求められた。
一週間の俗世での生活の中であった小さい罪や過ちを懺悔させられる。例え仮に何も思い当たることがなくても、捏ち上げでも絞り出す必要がある。そうしなければ無駄に詰問されたりする。それが毎週。
おかしくなりそうだった。
いや、多分とっくに追い詰められ、おかしくなってしまっていた。
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