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狂った日々
千枝が亡くなったのが7月初め。入院したのは8月の終わりだった。そして今は2月に入ったところ。
葬式が終わって呆然としていた哲平は、忌引きが終わるとすぐに出社した。
ざわざわとメンバーが話すのを「うるさい!」と一喝した。そのまま溜っていたメールを片付け初め、そばに寄ってきた花に「仕事しろ!」と怒鳴りつけた。
部長にミーティングルームに呼ばれ、話しかけてくる言葉は全部無視。
「仕事しに来てるんだからゴチャゴチャ言われる筋合いはない」
そう言葉を投げつけミーティングルームを出た。
池沢、野瀬が、広岡が何度も話しかけるが「仕事しないなら帰れっ」と資料を投げつけた。
誰かが笑えば「ここから出ていけ!」
誰かが喋れば「ここから出ていけ!」
部長に叩かれ、飛び掛かって殴りつけたのを澤田と中山が引きはがした。
「部長っ」
花が慌ててそばに跪いた。
「たいしたことない」
切れた口を拭う。ジェイがすぐに冷えているものをハンカチで包んで部長の腫れ始めた場所に当てた。そのハンカチが赤く染まっていく……
「このことは誰にも言うな。あいつが辞めさせられる」
だが何度目かの部長の呼び出しでまた部長を何度か殴って、倒れたのを蹴った。それを花が抑え込んだ。
「なにやってんだよ!」
「放して、やれ、花!」
やっと身を起こした部長が切れ切れに言う。そのままふらっと立ち上がった。
「でも部長!」
「いいんだ、放してやれ」
いつ暴れても捉まえられるようにと、花は脇に立った。だが哲平はなにをする間もなかった。部長が哲平を抱きしめた。
「哲平…… 分かってるんだろう? こうせずにはいられないんだよな。家にいることもできない、どこかにいることもできない…… だからここに来る。千枝を感じられるからだろう? でも…… ここには思い出があり過ぎる。お前が辛いのは無理もないんだよ。な、俺もついて行く。病院に行こう。そばにいてやるから、だから病院に行こう」
涙が止まらない部長の声は震えていて、ミーティングルームにいた池沢と田中も涙をこぼした。
哲平の体からがくりと力が抜け、そのまま床に座りこんだのを尚も部長は泣きながら抱きしめていた。何度目かの「病院に行こう」と言う言葉にやっと頷いた。
その場からすぐに哲平を抱きかかえるようにして花の運転する車に乗せた。友中先生に電話をして、受け入れてくれる病院を紹介してもらう。
『行けば迎えてくれるように連絡を取っておきます。安心してくださいね』
宇野家には広岡が連絡し、迎えに行った。和愛を茉莉に預けて彦助と勝子は病院に向かった。
空は千枝が倒れた時のように青く輝いていた。
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