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娘と二人
夕食を食べてから一知花が車で自宅まで送ってくれた。
「あんた……」
『本当に大丈夫なの?』
一知花はその言葉を呑み込んだ。自分から帰ると言ったのだ、水を差したくない。
「なに?」
「途中でなにか買ってく? 飲み物もなにも無いわよ」
「あ、そっか!」
「しょうがないわね、全く。今日は私が出してあげるから好きなもん買いなさい。あそこのスーパーでいい?」
「わ、サンキュー!」
哲平にも一知花の心遣いは伝わっている。
(ありがと、いち姉ちゃん)
口に出さずとも互いに伝わるものがある。断りなどせずに、喜んで買ってもらった。
「米と味噌も買う」
「お米? まだ二泊三日なのに?」
「ちゃんと米があれば他に行かずに済むからね。しばらくは家で過ごしたいって今日思えたんだ」
「そう! じゃ新米買お!」
涙が落ちそうになり、一知花は急いで米を取りに行った。一番いい米を掴む。5キロを2つ。ついでに米に付く虫よけも。
カートを押して行ってみると、哲平はまだ味噌を見ていた。和愛はいい子で大人しく抱かれている。
「あれ、2つ?」
「虫よけも買ったから。10キロの袋開けるよりいいでしょ?」
「……ありがとう」
「今回だけよ、いいわね? 味噌は?」
「これにする。商品が変わっちゃっててさ、千枝が使ってたのが無いんだ」
「もし見かけたら買ってあげるわ。覚えてるから」
冷蔵庫に入っていた味噌は一知花が本家に持ち帰った。だから覚えている。
マンションに着くと、一知花が和愛を抱っこした。荷物は哲平が持って上がる。その短い道中で昼間のことを話して聞かせた。
「あんた、気を付けなさいよ。そういう人って何かと言っちゃ押しかけて来るから。最初が肝心!」
「気を付けたいけど。あのマシンガントークには負けるんだ」
「賑やかでいいじゃないの」
そんな外部からの刺激もいいかもしれない。自宅に引きこもってしまったら、とまた心配になる。
「今日土曜だけど。明日はどうするの? 病院に戻らなきゃでしょ?」
「うん……明日は花に頼むよ。いろいろ話したいことがあるから」
「分かった。じゃ、なにかあったら電話して。夜中でもいいから」
一知花が帰って、哲平は和愛とパジャマに着替えた。新しい積み木に驚く。
(すげ……オリジナル積み木? 全部白木…… 部長、ありがとう!)
着替えさせたパジャマも部長からもらったものだ。
(あ、水通ししてない……ま、いっか)
明日は早くに起きて洗濯しようと思う。
いろんなことが繋がって、この『今』に辿り着いた。
(みんな。助けてくれてありがとう。お蔭でこの家で眠れるよ)
悪い夢も見ず、和愛と久しぶりのベッドでぐっすりと眠った。
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