娘と二人

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  「すごいね! 自宅に帰れたんだ!」  花は興奮している。自宅に寝て、朝は6時半に起き朝食を作って和愛と食べた。洗濯もし、すでに取り込んでいる。そして4時半に花に迎えに来てもらったのだ。 「悪いな、病院との送り迎えとか頼むと思う」 「そんなのいいよ! みんなも喜ぶって」 「……お前には本当に迷惑かけてる。ありがとう」 「やめて。『ありがとう』はいいけど『迷惑』は余計。だって迷惑してないし」  そうは言われても、花にはどれほど恩を感じているか……だが、そんなことを言えば怒るだろう。  その次の週からは、花、または実家の誰かが自宅に送ってくれるようになった。自宅でのリハビリだ。担当の栗原医師も驚くべき回復だ、と大喜びだった。  そしてさらに大きな変化が訪れる。哲平は堂本家の両親に連絡を取ったのだ。 「ご無沙汰しています」 『哲平……哲平なのか!?』 「はい。和愛を何度も面倒見てくださってありがとうございます! 実は今、自宅からかけてるんです」 『自宅って、ご実家じゃなくて?』  向こうはスピーカーにしているから二人で話しかけて来る。 「はい、自分の家です。和愛と生活を始めました。だから今度来ませんか? 俺の手料理、ご馳走します!」 『てっぺ……』  電話の向こうで大きな泣き声が上がた。  花が遊びに来て、部長が遊びに来て、ジェイが、広岡が、みんなが遊びに来てくれた。その都度手料理を振舞う。料理はリハビリにいいと聞いたから、レパートリーを増やしつつみんなに食事で恩返しをしていく。 「和愛…… 父ちゃんな、たくさんの人に救われたんだ。今も救ってもらってる。母ちゃんがいないのは……すごく寂しいし悲しいけど、でもみんなが支えてくれるんだ。いつかはお前も嫁に行くんだよなぁ…… そしたら……たくさん、子ども作れよ。父ちゃんの我がままだけどさ。お前を嫁にくれってヤツ、どんなヤツかな。半端な男なら父ちゃんがぶっ倒してやる。お前は父ちゃんの宝だ」  とうとう退院の日が訪れた。涙は無かった。哲平には喜びが満ち溢れている。  迎えに来たのは本家の両親と部長だった。一緒に栗原医師や平田看護師たちに頭をさげた。 「頑張りましたね! 私たちも嬉しいです。なかなかこんなに症状が改善する方はいません。それでもなにかあったらどうぞ頼ってください。いつでも力になります」 「ありがとうございます。哲平が……宇野がお世話になりました。先生方には感謝しかありません」  部長は泣いていた。その背中を哲平が擦る。 「俺、これからは妻の分まで人生を楽しみます。娘の中に妻が生きている……今はそれをはっきりと感じています。和愛を大切に育てることが今の俺の喜びです!」  車の中で部長は繰り返した。両親の車は後ろからついてきている。 「会社や俺に感謝なんてするなよ。そんなことはどうでもいいんだ。それより自分と和愛との生活だけ考えろ。もし転職するならギリギリまで休職手当もらえよ」 「転職しませんって。ただ……時間はまだかかると思います。待っててもらえますか?」 「もちろんだ! 戻ると言うのならいくらでも待つよ。でも無理だけはしてくれるな」 「はい」 (部長……あなたがいるから戻りたいんだ。俺を見捨てないでくれた。あれだけひどいことしたのに。花たちと一緒に支え続けてくれた。戻ります、必ず)  哲平は我を失うほどに千枝を愛しぬいた。そして今、和愛と共に生きていく決心をした。  再び哲平の人生が花開く。得難い仲間たちに囲まれて。 ――『絆物語』完――  
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