再会

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電話の先の彼の声は弱々しいものだったのと 同時に、酔っている時の雰囲気があった。 彼はどこかで飲んでいるんじゃないか。 そう思った。 わざわざ私に電話をかけてくるということは きっと一人なんだろう。 お酒が弱い彼が一人で飲んでいる… それは何かあったのかもしれない。 心配で堪らなくなった私は、早足だったのを 駆け足にする。 どこに居るのか分からないけれど、とりあえず いつも行くお店を当たってみようと、私は 夜の街を走り抜けた。 『譲君っ。』 幸いにして、彼はいつも私達が飲むお店に 居てくれた。 カウンター席の一番端。 空になったグラスを黙って見つめる姿は ひどく儚く見えた。 『瞳…?』 私の顔を見上げた彼は、やはり酔っているのか 視線が定まらない。 今にも泣き出しそうなその表情を見て 私は彼を促した。 『帰ろう。』 その呼び掛けに静かに立ち上がった彼は、フラフラ と足元がおぼつかない。 だから私は肩を貸して、タクシー乗り場まで ゆっくりと歩いた。
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