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その日も私達は飽きることなく話していた。
気が付けばクラスのみんなは帰ってしまっていて
教室には私と彼だけ。
夏の気だるい空気の中、汗ひとつかくことなく
柔らかい微笑みを浮かべている彼に思わず
見とれた。
周りの女の子達は彼を見てよく騒いでいたけど
正直、あまり興味はなかった。
だけど今は違う。
いつの間にか、私の頭の中は彼でいっぱいに
なっていたんだ。
どくん、どくん…と心臓の音が激しくなる。
初めて味わう感覚に、どうしたらいいか分からなくて、それが何なのか分からなくて戸惑っていた私に…
『五十嵐?
どうしたの?具合悪い?』
彼は心配そうに聞く。
『ううん。大丈夫。
ちょっと考えごとをしてただけ。』
『本当に?それならいいけど。』
その時ふと思った。
もうすぐ夏休みが始まる。
そうすると、彼に会えなくなってしまう。
だから私は意を決して、連絡先を聞こうと
口を開いた。
『あのさ…』
私がその先の言葉を言う前に、ガラッと教室の
ドアが開く───。
『汐里』
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