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…彼女を呼ぶ柔らかい声。
今まで私に向いていた視線が彼女へと向く。
『下駄箱に靴があったから、まだ残ってるんだと
思って。』
『だから来てくれたんだ?
よかった。一緒に帰ろう。』
彼にそう言われた彼女はふわりと笑った。
腰まで伸びた長い髪。
色白で透き通るような肌。
お人形のように整った顔。
その姿は華奢で、儚げでまるでガラス細工のよう
だと思った。
少しでも強く触れたら壊れてしまいそうな。
そして何よりも…美しい人だと思った。
『じゃあ五十嵐。
また明日。』
『…うん。ばいばい。』
ついさっきまで私と話していた彼が、ひどく
遠くに感じる。
彼はさっと、机に置いてあった鞄を持つと、ドアの
前で待つ彼女の元へ歩いていく。
教室を出る時、一瞬だけ私に視線を止めた彼女は
微笑みながら軽く頭を下げる。
───やっぱり美しい人だと思った。
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