81人が本棚に入れています
本棚に追加
どこか気まずい空気の中、私は意を決して
口を開いた。
『久しぶりだね。』
極力、平静を装ったつもりだ。
私の声に反応した彼は遠慮がちに視線を
合わせる。
『うん。久しぶり。』
外見はずいぶん大人になってしまったけれど
四年ぶりに聞いた声はあの頃と変わらなくて
それが何だか嬉しかった。
柔らかな優しい声。
何度かけても繋がらなかった電話の、お約束の
無機質な声じゃない。
彼からしたら、私に再会したことは嬉しいこと
ではなかったと思う。
慰め合うように衝動的に重ねた体───。
きっと彼はあの日のことを後悔している。
だから連絡を絶ったんだろう。
それでも、私はあの日のことを後悔したことは
一度もなかった。
彼が私に愛情を持って触れたのではなかったと
しても…
あの時の私に出来ることはそれぐらいしか
なかったから。
それにどんな形であったにせよ、彼に抱かれていた
私は幸せだったから…。
最初のコメントを投稿しよう!