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『もしもし…』
そう力ない声で電話がかかってきたのは
梅雨が終わって、夏本番に入ったばかりの夜
だった。
その日は仕事が終わらなくて、残業をしていた私。
きりのいいところでパソコンを落として、ふと
携帯を見たら彼からの着信があったから、慌てて
通話ボタンを押したんだ。
『譲君?どうしたの?』
彼から電話がかかってきたのは初めてだったし
こんなに弱々しい声を聞くのも初めてだった。
何かあったのかと心配になって、電話の先の
彼の返事を待つ。
『………。』
『譲君…?』
『…ごめん。何でもない。』
そこでプツンと電話は切れた。
すぐにかけ直してみるけれど、何度かけても
電話は繋がらない。
私はバッグに携帯を突っ込んで、急いで会社を
出た。
───彼が私に助けを求めている。
そんな気がしたから。
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