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「んっ…あっ…」
「はぁっ…はぁっ瞳っ…」
荒い呼吸と、声にならない声。
その合間で彼は私の名前を何度も呼ぶ。
そうやって彼に名前を呼ばれる度に、チクリと
心に小さな棘が刺さった。
彼はいつも優しい。
それは私を抱く時もそうだ。
だけどたまに───
そう、こういう日は決まって彼は体で感情を
ぶつけてくるように私を抱く。
それは彼の心の叫びのようで、私はただただ
受け入れる。
それが、私が彼にできる唯一のことだから。
私にはそれくらいしかできないから。
そうすることで、彼の気持ちが少しでも楽に
なるのであればいいと切に願う。
───どうか苦しまないで。
果てる直前、私にキスをした彼の瞳から
涙が一筋溢れたのを見てから、私の意識は遠
退いた。
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