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エピローグ
それから数日間、僕は岩手県に行く準備をする。
「敏ちゃん、ここに居ていいやんね。お金のことは心配せんでいいとよ」
おばあちゃんは僕が再び出ていくことで口癖のようにそう言った。
そして、時にはこう言う。
「離れてもね、敏ちゃんが頑張ってるならおばあちゃんは嬉しい。またいつでも帰ってこんね。おばあちゃんは敏ちゃんと会えるまで頑張って生きてるから。何かあったら、お父さんに頼っていいけんね」
いろんなおばあちゃんの気持ち。
ひしひしと伝わった。
長男も一度、実家に僕を見に来てくれた。
「敏日旅、良かったね。何かあったらすぐ言えよ。絶対生きろ。死ぬなよ」
その言葉だけで気持ちは伝わる。
ありがとう。
もう死なないから。
弟。
「敏ちゃんはまた嘘つきよるだけって。自分のことしか考えてないやん。どんだけこっちが被害受けたと思っとるとやか?なーんも考えてない」
勝手に出ていき、勝手に戻ってきて、また勝手に岩手県に行く僕に対して。
そうやって父に電話越しに話している声が聞こえてきた。
辛い思い、苦しい思いをしているのが伝わる。
ごめん、もうちょっとだけ待ってくれ。
本当に苦しい思いをさせてしまった。
そして、父。
Tさんからの電話を受けてから、残りの数日は一緒にビールを飲んだ。
今までよりも、ずっとずっと濃い話をしたかもしれない。
いや、むしろ、内容は深いものではなかった。
今、僕が言えることなんてない。
結果が出てないから。
言い訳もしない。
何でこうなったか?
誰のせいか?
父の育て方、母の育て方が悪かったからこうなったのか?
暴力団が怖かったからこうなったのか?
それは違う。
悪いのは「僕」だ。
今、大きなことは何も言えない。
ただ、自分の借金は自分で返す。
ずっと、父には返す分は送り続ける。
そして、いつか一緒にお酒を飲もう。
こうして2019年12月9日。
僕は福岡を再び旅立った。
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