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父の実家に着く。
お腹が空いていた僕は、父が準備してくれた食事を平らげ、これから先のことを話すことにした。
父が僕を迎えに行くことはすでに母には話しているらしい。
2人がどんなやり取りをしているか分からない。
だが、父は僕にこう言った。
「お父さんとここで一緒に暮らすか?」
僕は正直迷った。
僕の地元からは車で20分ほど。
行けない距離ではない。
だが、ここに住む以上、友達と遊ぶことが困難になる。
僕はまだ15歳。
バイクの免許すら取れる年齢ではない。
友達と遊ぶには電車で行かなくてはならない。
けど、僕は父の実家に住むことを決めた。
そして、父と話した結果、高校に頑張って通ってみること。
全てが決まると父は母にこのことを伝え、僕は父の実家で暮らすことになった。
高校には父の実家から通った方が近い。
少しずつだが以前よりも真面目に通うようになった。
そして、空き部屋で物置状態だった部屋を父と一緒に片付け、僕の部屋を作ってもらう。
この時、父からのサプライズでベッドも届いた。
父の実家には前にも言ったがほとんど誰も行かない。
だからこそ、僕が1番可愛がってもらっていたのは事実だと思う。
他の兄弟は父とあまり話していなかったというが、僕は父と一緒に住んでいたことで話す機会も多かった。
今に至るまでも、父と1番話し、父のことを1番理解しているのも僕だと思う。
そして、おばあちゃんも喜んでくれた。
僕はよくパンクロックの音楽を流しているのだが、父の実家は周りに家が無く、多少音量を上げて聞いても外には聞こえない。
音楽を聴いていると、よくおばあちゃんが僕の部屋に来て踊っていた。
「初めて聴いた、こんな音楽。何か踊りたくなるね!」
と笑顔で僕に言い、訳の分からない踊りをしながら2人で笑っていた。
そして高校にも何とか通い続け、1カ月が過ぎようとしていた。
次の時間は移動教室での授業、僕は移動する前にタバコを1本吸おうとトイレへと向かう。
この時すでに授業は始まっていたので、誰も来ることはないだろうと軽い気持ちでいた。
すると、人影が僕の視界に入る。
急いで火を消そうとした時にはすでに遅かった。
なんと校長だった。
そのまま僕は別の部屋に連れていかれ、怒られた後、停学処分を受けた。
僕は家に帰り、父にそのことを伝える。
だが、父は特に驚いた様子もなかった。
いつかはその日が来る、そう思っていたのだろう。
父は母にそのことを伝える。
僕に何があったかはほぼ毎日逐一連絡をしていたみたいだ。
そして僕は停学になったことで学校に通う気が一気に失せた。
停学といっても僕の高校は通学しなくてはならない。
みんなが授業を受けている間、他の部屋で反省文や漢字だか何か忘れたが作文用紙に20枚、これを毎日書かなくてはいけなかった。
1日だけ通うと僕は高校へ行かなくなった。
それから少しずつ、また友達と遊んだり、父の実家まで友達が遊びに来たりと以前の生活に戻ってしまう。
そして僕は早くも出席日数が足りなくなってしまった。
父の実家に住むようになってから高校に真面目に通うようになったといっても、毎日ではない。
以前よりも真面目になっただけだ。
そして、学校でも気持ちが乗らない日は途中で帰ったり授業をサボったりしている。
母の実家にいた時も週に1度や2度しか行っていない。
高校に父が呼び出され、その後、父から僕の処分を聞いた。
職員会議で僕に退学してもらおうという話になったこと、先生たちのほぼ全員がそれに合意したが、担任と校長だけが今年1年だけ休学にして頑張る意志があるならもう1度チャンスを与えてやろうと言っていること、もし辞めるなら自主退学をしてもらいたいということ。
僕にはもう1度来年一から高校に通うという選択肢はない。
そのことを父に伝え、僕は高校1年の2学期の頭に退学することになった。
この時、母には当然父から退学の話は伝わっているのだが、父から自分の口で母に伝えてやってほしいということを言われ僕は承諾した。
そして父と退学の手続きをするために、高校での最後の1日を迎える。
淡々と手続きを済ませ、僕と父がサインをし、退学が正式に決まった。
父は先生方に深々と頭を下げている。
僕は頭を下げない。
先生方と最後に少しだけ話をし、高校を後にした。
そしてその足で母の実家へと向かう。
母と会うのも久しぶりだ。
正直、ちょっとだけだが嬉しかった。
そして久しぶりに家の玄関を開け、「ただいまー。」と言い、母が居る居間に向かった。
そこには母、祖父母、みんな居る。
久しぶりだったが、それを感じさせない様子で以前と変わらない「お帰り」の声が聞こえてくる。
あえて自然に振舞ってくれる家族。
もう喧嘩してから時間も経っていることで、僕としても早く母と会って普通に話がしたかった。
そして母に高校を退学してきたことを伝えた。
母は悲しそうな顔をしている。
これから先のことを考えると、どうしても高校は卒業してほしかったのだろうと思う。
だが、母はそれを受け止めてくれた。
この時点で僕の最終学歴は中卒となった。
これから先どうしようか。
悩んだ結果、僕は仕事をすることに決めた。
お金も欲しかったし、何もしないままではいけないという認識も子供ながらにあったからだ。
まず仕事に行くために原付の免許を取らせてもらう。
その後、求人誌などで仕事を探してみるが、なかなか見つからない。
そもそも16歳で働ける場所はアルバイトくらいしか載っていないし、アルバイトという形で働くのは何か嫌だった。
選択肢の中に土建業などもあるが、僕には当てがない。
仕事をせずにフラフラ遊ぶ毎日。
すると、母が僕に仕事を見つけてきてくれた。
中学校の友達の家。
小さな工場を営んでいて、その友達の母とコンタクトを取り働かせてもらうことが決まる。
僕は母の実家に戻り、そこから仕事に通うようにした。
ちなみにここは以前にも話に出た金髪の同級生の家である。
そして、人生初の社会人の1日がスタートした。
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