家族、そして母 ~高校入学から逮捕、母の病気~

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初めての仕事。 朝8時から夕方5時まで。 時給は650円だった。 とはいっても、当時は時給なんかいくらでも良かった。 言うならば、1時間働けば650円貰える。 16歳でなんの趣味もなかった僕。 タバコは吸っていたが、当時僕のタバコは270円だっただろうか。 食事に行ってもお酒を飲んだりする訳では無いので1000円あれば充分満足できる。 肉体労働できつかったが、毎日真面目に仕事をしていた。 最初の給料は、月の途中から働き始めたので5万円弱。 それでも僕にとっては大金。 毎日仕事が終わって夜な夜な遊びに行っていたのだが、何時に帰ってきても仕事だけは行くようにしていた。 そして、この頃は母とも仲良く過ごせていた。 母は毎日僕に弁当を作ってくれ、まだ子供で朝も起きれない僕を毎朝起こしてくれ、自然と喧嘩をすることも無くなっていく。 母も婆ちゃんも爺ちゃんも喜んでくれる。 年末に近付くと、仕事も忙しくなり少しずつ残業も増え、終わるのも夜8時や9時を過ぎるのがザラになってきた。 だが、そのお陰で給料も手取りで15万程ある。 初めて中学生だった弟にお年玉をやり、母とも食事に行き、母は「あんた仕事だけはちゃんと行くもんね!」と言って喜んでくれていた。 それからも仕事は何とか続けることができ、僕の17歳の夏が近づく。 だが、この頃から少しずつ僕は今が楽しくなくなってきた。 とはいっても、特に仕事が嫌だった訳ではない。 毎日遊んでいて、遊び足りなかった訳でもない。 僕は、不良という人生を歩み始めて17歳で2年が経つ。 少しずつ大人になっていく僕。 だが、その大人に近付いていき、当たり前の毎日が嫌になっていた。 そして、僕の不良という人生が不完全燃焼のまま終わるのが嫌だった。 僕が勤める工場の社長の息子、金髪の同級生もこの頃よく一緒に遊んでいた。 この頃は金髪の同級生も金髪では無い。 彼は別の場所で働き、終われば合流して遊ぶ。 そんな毎日を繰り返していた。 そしてある日、僕たちは1つの話題で盛り上がり話し始める。 その内容は「暴走族」だった。 暴走族に入ろう、ということで毎日話すようになっていた。 実は中学校を卒業する頃、僕と金髪の友達、学年1の不良だった友達と3人で暴走族に入ろうと先輩の所へ挨拶をしにいったことがある。 1度は暴走族に入ることが決まったのだが、この暴走族は僕たちの地元にあるチームではない。 市内で1番大きなチームであり、シンナーをしている人が多かった。 だからこそ、中学校を卒業する頃に僕がシンナーをして地元の先輩たちに制裁を受けた時、その暴走族に入ることを断るように言われて、僕とこの金髪の同級生だった彼はそのチームに入ることをやめた。 だが、学年1の不良といわれた友達だけそのまま入り、それからは大人になるまでほとんど彼とは会っていない。 僕たちはどうしても暴走族に入りたかった。 目立ちたかった。 今しかできないことを楽しみたかった。 道から外れたことをやるのは充分に分かっていたのだが、もう収まりが効かない。 そして僕たちは暴走族に入ることを正式に決めた。 いや、暴走族に入る、というよりも、昔地元にあったチームを復活させることになったのだ。 僕たちの地元の暴走族は無くなってもう5~6年が経つ。 身近な先輩を辿っていき、僕たちは歴代の総長をしていた先輩を会えることになった。 食事の席を設けてくれ、頭を下げ、僕たちは暴走族を復活させてほしい旨を伝える。 その後、チームの決まり事であるいくつかのことを伝えられ、僕たちは復活させてもらうことを承諾してもらう。 ちなみに決まり事の中にもちろんシンナーも入っている。 もしかすると、ここから地元のシンナー禁止が始まったのかもしれない。 そしてこの日から僕たちは暴走族になった。 ただ、暴走族になったとはいえまだ仕事は続けている。 正直、まだ名前だけの暴走族で何の活動もしていないおままごと状態だ。 仕事が終わると、金髪の同級生だった彼とこれから先の話や、特攻服の話、いろんな話をする。 そして、まずは特攻服を作ろうと決まり、某雑誌で無地の特攻服を頼んで地元の刺繍屋に文字は入れてもらおうと話し、金髪の同級生だった彼の自宅に無地の特攻服を注文した。 だが、ここで少しだけ事件が起きた。 元金髪の彼の家に特攻服が届くと、彼の親がその中身に気付き、彼が働く職場に持っていったのだ。 元金髪の彼が勤める会社と親の会社は顔なじみ。 そこで彼が勤める会社の社長が出てきた。 僕は呼び出される。 そして言われた。 「屋梨くん、もう特攻服は燃やしたから。そんな馬鹿らしいことはもうやめろ。」 僕は納得いかず、敬語を使いながら反発する。 なぜ見知らぬおっさんに言われてやめなくてはいけないのか。 やりたいことをやって何が悪い。 あんたに偉そうなことを言われる筋合いはない。 元金髪の彼ともう1人友達がいて3人でその場に居たのだが、2人はなんだかんだ合意している。 「やっぱり、親は、大人は心配するしね。」 ヘラヘラしている。 だが僕は笑う気にすらならない。 悪いことをしようとしているのは僕だ。 怒られるのも当然である。 だが僕にとっては、もうやろうと決めたこと。 それをそんな簡単にはやめたくない。 そして大人に言われ、ヘラヘラしている友達にも腹が立った。 僕は1人でもやる。 特攻服なんてどうでもいい。 それから僕は仕事を辞めた。 辞めた理由は、このことでもういろいろ言われたくなかったから。 どうでもよくなってきた。 それから僕は暴走族人生をひた走ることになる。
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