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中学校に上がると、僕は野球部に入り、本気で野球に打ち込むことになる。
素行面も落ち着き、「不良」と呼ばれる人に対する憧れを抱きつつも、野球が楽しくなり、子供ながらにプロ野球選手になりたいと大きな夢を持つようになり毎日練習に励んでいた。
そして、小学1年生からソフトボールをやっていたこともあり、野球部の中で想像以上に高い評価をもらい、それなりに結果もついていたことが楽しくなった要因だったのだろうと思う。
その結果、2年生になり、3年生が部を卒業すると僕はキャプテンに抜擢され、部活が終わった後も1人で夜な夜な練習をするほど野球が好きになっていた。
だが、好きと実力はまた別。
最初は思った以上の結果が付いてきたものの、途中から思ったほどの結果が出ない。
試合をしても負けが続く。
小学校の頃からちやほやされ、ソフトボールチームでは4年生からピッチャーで4番を任され、試合でもそれなりの結果を残していた。
それだけに悔しい思いが続く。
所詮、井の中の蛙。
僕の実力は中学校の部活でも通用しなかった。
努力が足りなかった。
今思えばそうだったのだろう。
だが、努力が足りないとかそんなことを考えるよりも先に、結果が出ない野球が楽しくなくなっていった。
そして、当時の僕は思春期の真っ最中。
周りの友達はオシャレなどにも気を遣うようになり、少しずつ僕の中でも興味が出てくる。
カッコいい自分になりたい、カッコよく見られたい。
周りの友達が頭にワックスを塗って登校してくれば僕も真似をし、お洒落な洋服を着ていれば僕も真似をしてみた。
だが僕の中で何かしっくりこない。
それをカッコいいとは思わないし、真似してやってはみるもののどこか満足しない。
僕には理想の自分があった。
「不良」になった自分だ。
3年生になりクラス替えがあると、僕は学年1の不良と同じクラスになった。
この同級生は地元でも結構有名なワルだ。
当時の僕はこの同級生が苦手だった。
不良という部分では憧れる点や魅力に感じる点もあったのだが、やはり本物の不良は同級生といえども怖い。
特に、中学校にもなると不良という人種も少しずつ完成形に近付いていく。
力関係も当然出てきて、臆病な僕にとっては気軽に話すことも億劫になるのだ。
だが、その不良はいつも僕に気軽に話しかけてきていた。
「屋梨ー!今度一緒に遊ぼうや!屋梨は絶対喧嘩強いって!こっちの道においでよ!」
そんなことをよく言われていた。
正直僕は悪い気はしていなかった。
僕は今まで自分が喧嘩が強いなんて思ったことはない。
それは当時だけではなく、今現在でもだ。
だが、喧嘩が強い自分になってみたいし憧れがある。
しかしこの時は、なれたらいいな、というくらいの気持ちで笑って受け流すだけで1歩を踏み出すことはなかった。
そして、僕にはそんな勇気は持ち合わせていない。
正しい道に進むのも勇気がいるが、道を外れるのも勇気がいる。
不良という人間になるにはそれなりの覚悟が必要だ。
だが、そんなある日、一つのきっかけで僕は不良の仲間入りを果たした。
今でも思う。
この日が無かったら今の僕とは全く違う人生を歩んでいたかもしれない、と。
僕の家は犬を飼っていた。
名前は「金太郎」。
我が家のアイドルだ。
その日は1学期の中間試験中ということもあり、部活が休みだったので金太郎の散歩に行っていた。
よくある何気ない1日。
すると、前から明らかに焦った様子のおばちゃんが自転車に乗って周りを見渡している。
何かを探しているようだ。
おばちゃんは犬の散歩をしている僕の姿を見ると、僕の元へと近付いてきた。
「すみません!ここら辺で犬を見ませんでしたか?」
詳細は覚えてはいないが、犬の特徴を言っていたのは覚えている。
僕は見ていない旨を伝えると、おばちゃんにメモ紙をもらう。
「すみません。もし見かけたらここに連絡をもらえませんか?」
そう僕に伝え、おばちゃんはまた自転車で足早に去っていった。
僕は金太郎の散歩をしながらも、途端に心配になり始める。
全く知らないおばちゃんとはいえども、犬を飼っている気持ちは一緒。
そこで僕は決心した。
「よし、俺もおばちゃんの犬を探すのを手伝おう。」
僕は金太郎の散歩をやめて自宅に帰り、犬の捜索に出かけることにした。
歩きでは時間が掛かるし、遠くまで探しに行くことができない。
僕は自転車にまたがり、ありとあらゆる場所を探索した。
普段通ったことのない道、山道の方まで見て回る。
だが犬は見つからない。
当時僕は携帯電話は持っていなくて、時計もしていない。
時間が何時になっているか分からないが、もともと学校終わりの放課後であり夕方だったので、日も落ち始め辺りは暗くなり始めていた。
もう諦めて帰ろう…。
おばちゃん犬見つけられたかな…。
そんなことを考えながら自転車を漕いでいると、いつの間にか中学校の前まで来ていた。
外から学校の校舎を見ると、暗い静かな中、職員室の明かりだけが付いている。
明日試験か…。
そんなことを考えながら家の方へ向かっていると、前から学ラン姿で金髪の人が自転車に乗って僕の方に向かってくるのが分かった。
よく見ると、同級生の不良グループの1人だった。
「おー屋梨!こんなとこで何しよると?」
声を掛けられ返答しようとしたが、さすがに思春期の僕は、知らないおばちゃんの犬を探していたなんて恥ずかしくて言えない。
「いやーちょっとね。用事があって出かけっとった!その帰り!」
そう返答すると、金髪の同級生は僕にまた問いかける。
「今から暇?ちょっと久しぶりに遊ぼうや!」
この同級生は中学校に入学したときに初めてできた友達だった。
一緒に野球部に所属し、ご飯を食べに行ったり家に遊びに行ったりしたこともある。
だが、少しずつその友達はグレ始め、野球部を辞めるとそのまま不良への道を進んでいった。
正直乗り気はしなかったけど、断りにくいこともあって同級生の問いかけに承諾し、言われるがままに付いていく。
他愛も無い話をしながら中学校を離れ、僕たちの町の中では1番の大通りの道へと出ると、前からフラフラと自転車を漕ぎながらまた1人誰か現れた。
よく見ると、学年1の不良だった。
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