家族、そして母 ~幼少期、中学校入学から不良への道~

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僕らの存在に気付くと、学年一の不良はそのままこっちへ来て話しかけてくる。 「屋梨が居るとか珍しいやん。今からどこで遊ぶと?」 金髪の同級生と学年1の不良が何か話している。 何もすることも無いからいつも行く公園で時間をつぶす、そう金髪の同級生が言うと、学年1の不良は俺も後から合流する、という旨を伝えその場を去っていった。 僕は正直、何もすることが無いくらいなら日も落ちて暗くもなってきているし一刻も早く家に帰りたい、というのが本音だった。 だが断りづらいし、まあ少しくらいならいっかと思い、さっきと同様また金髪の同級生と話しながら公園へと向かう。 一足先に公園に着き、タバコをふかしながら学年1の不良が来るのを待っていた。 ちなみに僕はこの少し前からまたタバコを吸うようになっている。 小学校の頃は肺に入れずカッコだけふかしていたのだが、もうこの時は肺にいれ普通に吸うようになっていた。 正直この時はおいしいと思って吸っているわけではない。 それこそ何度でもいうが、ただの不良への憧れだ。 家に帰って自分の部屋では吸わないし、1人でいる時はまず吸わない。 タバコを吸うのは友達といる時だけ。 要はただのカッコつけだ。 他愛のない話をしながら待っていると、自転車に乗った学年1の同級生の姿が見える。 だが、さっきまでと明らかに様子が違う。 何かフラフラしている。 そして何かこちらに向かって話しているが呂律が回っていない。 僕たちの前に着くと、いきなり自転車から転げ落ちた。 どうしたんだ? そう思ってみていると、金髪の同級生が言った。 「お前またシンナーしよるやろ?あっ!袋持っとるやん!貸せ!」 僕は衝撃だった。 タバコは僕も吸っているし、お酒も飲んだりしたことがある。 これも悪いことではあるが、興味本位で経験した方も多いだろうし、何よりこの2つは周りの大人たちには許され未成年だけが禁じられている行為。 見たことない人の方が少ないだろうと思う。 だが、シンナーは別だ。 れっきとした犯罪で、特に吸引することは法で禁じられている。 普通の生活をしていれば見ることなどまずありえない。 僕は初めて見る光景に驚きと恐怖を感じて、言葉を発することすらできなかった。 金髪の同級生が学年1の不良からシンナーを取り上げようとする。 だが、抵抗し渡そうとしない。 金髪の同級生は無理やりシンナーの入った袋を奪うと、すぐさまシンナーの入ったペットボトルも見つけて取り上げる。 そして公園の広い駐車場のアスファルトの上に全てこぼした。 ライターを取り出し火を付け、一瞬にしてシンナーは青い光を上がながら燃え上がっていく。 学年一の不良は「あー!やめろ!」と言い、シンナーで燃えている炎を見ながらうずくまった。 そして金髪の同級生は、「シンナーするならもう遊ばんから。今日はもう帰れ。」そう言い放ち、学年1の不良もシンナーが無くなったことで落ち込み帰っていった。 僕はその間呆然と立ち尽くすしかできなかった。 背中がぞくぞくするほど怖い。 自然と手が震える。 マンガでしか見たことのないようなことが現実の世界で、そして目の前で起きている。 僕はこんな世界では生きていけない。 そう思っていた。 現実を目の当たりにすると、憧れなんかよりも恐怖の方が勝る。 「俺、もう夜遅くなってきたから今日は帰るね。」 そう伝え、シンナー事件から30分ほどまた他愛のない話をした後、家に帰ることにした。 家に着くと時刻は夜8時を回っていた。 この頃は兄たちも高校、大学に通っているため、家族みんなで食卓を囲むことも無い。 台所へ行くと、婆ちゃんがご飯を作っていた。 母はどこか出かけているようだ。 特に夜中に帰ったりしなければ、門限などなかった僕の家。 いつも通りの光景だった。 婆ちゃんに食事の準備をしてもらい、1人で晩御飯を食べて自分の部屋へと向かう。 お気に入りでいつも聞いていたパンクロックの音楽をかけ、ベッドに横になり天井を見上げながら今日のことを振り返る。 もうこんな遊びはやめよう。 そんなことを考えながら、布団に入り目を瞑るがなかなか寝付けない。 明らかに興奮している。 何度も目が覚めてしまい、起き上がり窓を開けてカバンからタバコとライターを取り出し、外の空気を吸いながらタバコに火を付けた。 家で吸った初めてのタバコだった。 タバコを自分から吸いたい、と思って吸ったのもこれが最初。 外を見ながら思う。 もしまた誘われたらどうしようか…。 断れるだろうか…。 そう思う反面、違う感情もこみ上げていた。 憧れていた不良に1歩近付いた日。 僕の中で、1歩どころか不良という今までにない非日常の生活を見れたことで、物凄く不良に近付いた気がしていた。 目の当たりにした時は怖かったが、思い返してみるとそこまで恐怖心は無くなっている。 自分が道を外れていくことを分かりながら、何故か憧れの自分に近付いている気がして……。 この日を境に僕の人生、周りの環境、全てが変わっていった。
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