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翌日学校へ行くと、金髪の同級生が僕を見つけ話しかけてくる。
学年1の不良も同様だ。
シンナー事件の日から、これまでとは明らかに話す機会も増えていった。
仲の良かった野球部の仲間たちとも少しずつ話すことも減っていき、周りの友達も変わり、野球部の練習にも行かなくなっていく。
生まれて初めて髪を染め、ピアスを開け、だらしない恰好をし、いつの日か同級生だった不良たちが友達へと変わっていった。
母は変わっていく僕の姿を見て、考え込む日が増えていく。
とはいえ、最初は怒りはするものの、息子である僕の気持ちをどうにか分かり、僕を受け入れようと必死になってくれた。
そして、母は怒るよりも僕とたくさん話し僕の気持ちを何よりも尊重しようと努力していた。
不良の仲間入りする以前の話になるが、僕は兄たちがやってきて僕もやらされた習い事は全部辞めている。
ソフトボールは続けたが、習字、塾、勉強が嫌いだった僕は、最終的に行かなくなった。
塾に関しては、僕が授業中眠っていたことを講師に注意され喧嘩し、途中で帰りそのまま辞めている。
帰った後、母に怒られるかと思えばそうじゃなかった。
「敏日旅、塾辞める?」
言ってくれたのは母だった。
兄たちは高校は地元でも有名な進学校に通い、僕も当然そうしないといけない。
そう思っていたのだが、母の想いは違った。
「敏日旅は敏日旅の好きな人生歩んでいいとよ?お母さんはみんな違う道歩んでいいと思っとるから。あんた小さい時から勉強好かんかったもんね。無理やり行かせてごめんね。」
優しい笑顔で僕に言ってくれる母。
母の本当の想いは分からない。
だが、母は自分の気持ちを押し付けず、僕たちの気持ちを一番に大事にしてくれた。
そんな母は僕が髪を染めた時、ピアスを開けた時もそうだった。
「あんた意外と似合うやん!」
そう笑って僕に言ってくれた。
世間一般からすれば良い親では無いし、正しい判断ではないかもしれない。
そして、母がよく言っていたこと。
「あんたの友達もみんな本当は悪い子じゃない。中身を見ればみんな素直で良い子たち。頭ごなしに怒っても一緒やもん。大人の私たちがわかってあげんとね。」
本当は嫌だっただろうが自分に言い聞かせていたのだろうと今だから思う。
私生活の話に戻る。
恐ろしいもので、慣れとは怖い。
もともと無理をして不良を演じていたの僕、だが怒られること、注意されること、悪いことをすることも回数を重ねると最初は無理してやっていたことが当たり前になってくる。
少しずつ犯罪にも手を出すようになっていき、無免許でバイクに乗ってみたり、タバコ、飲酒も堂々とするようになっていた。
そして、とうとう取り返しのつかない犯罪にまで手を染めてしまう。
「シンナー」だ。
僕はこのシンナーに限っては物凄い抵抗があった。
興味すらない。
そう言ってもおかしくない程である。
だが、僕は結果論手を出してしまうことになった。
断ることができなかった。
ビビっていると思われそうで。
最初は学年1の不良の一言だった。
「屋梨もやってみる?」
断ればよかった。
だが、その気持ちとは裏腹に違う言葉が僕の口から出てきた。
「うん、全然やってみる。」
正直そうは言ってみたものの、いざその時になればのらりくらりかわしていこう、そのくらいの気持ちだった。
断れずにやってしまう人の典型的な例だと思う。
そして、シンナーをすると言ってもまたいつか違う日だろう。
もしかするとその時になればもう忘れてるかもしれない。
だが違った。
「じゃあ今日しようや!夜遊べるやろ?」
この勢いに僕はもう断ることができない。
そして夜合流することになった。
このシンナーは僕の人生を狂わせていく。
夜になり合流すると、シンナーが入ったビニール袋を渡され、学年1の不良、そしてその他にいた数名の友達もシンナーを吸い始める。
僕も見よう見まねで吸ってみた。
すると喉に強い刺激が走り、せき込みむせ返り、吐き気に襲われる。
とてもおいしいものではない。
だがみんなが、ずっとしてたら慣れてくるからと言ってくる。
もうどうにでもなれと言わんばかりに僕は吸い始めた。
吸い続けると少しずつ慣れてきて、頭がぼーっとしてきてくらくらしてくる。
そして、夢を見ているかのような幻覚に襲われ始めた。
シンナーの袋がいきなり喋り出して溶け始めたり、周りから急に人が消えたり現れたり……。
気付いた時には記憶が飛んでいた。
ふと目を覚ますと全く知らない場所に居る。
途中で自転車で移動したそうだ。
だが、その記憶は全くない。
お酒を飲みすぎて記憶を飛ばした時と同じような症状で、その間も眠ったり気を失っている訳ではなく、起きて普通に動き回っている。
ただ、自分自身が覚えていないだけ。
僕は目を覚ました時にものすごい頭痛に襲われて、みんなに断りを言って家に帰ることにした。
そして次の日も頭痛が止まない。
もうしたくない。
きついし辛いだけ。
そう思いながら、翌日もずっと嘔吐を繰り返していた。
だがその気持ちとは裏腹に僕はシンナーをやめることができなかった。
誘われると断れない僕は、それから先も言われるがままにシンナーを吸う。
最初はきついし辛かったことも、慣れてくるとそうでも無くなってくる。
依存性があるのか?
別にそういう訳ではない。
依存する人もいるかもしれないが、僕はどちらかと言うとただみんながやってるから。
自分一人がやらないのも何か嫌だから。
そして断れないから。
それだけの理由だった。
建前上は言っていた。
「俺はシンナーやめれない。」と。
何かそっちの方が不良っぽく感じていたから。
だがその反面、シンナーをすることで気がかりなことがあった。
母の存在である。
他のことは良くても、シンナーだけは絶対に許さないだろう。
犯罪行為ということもあるが、何より体に害を及ぼす行為。
シンナーで命を落とした人も今までにいる。
心配するに違いない。
母には絶対バレてはいけない。
そう思い隠れ隠れやっていたが、シンナーには強い刺激臭がある。
家に帰る時も香水をたくさん付けたりガムをたくさん嚙んだりして紛らわせていた。
だが、僕がシンナーをしていることに母が気付いてしまう日がやってくる。
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