エピローグ ワトスン

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エピローグ ワトスン

 カチャカチャという音の後、ドアノブが回りゆっくりと事務所の扉が開かれる。 「また鍵がかかってなかった」  軽やかな足取りで床に散乱した有象無象を避け、部屋の中へと至る。 「手紙溜まってましたよ。後、毎回言ってますが、鍵はしっかり閉めてください。無用心です」  声の主は横に立つとため息をつきながら、机の上の手紙の山へ更に手紙を積み上げる。  ゆっくりとパイプを吸う。 「忙しくてね。どうせ大した用件じゃあないから気にしなくてもいいよ」  パイプから上がる紫煙が薄暗い天井へと消えていく。  声の主はそれを掻き乱しながら言った。 「誰がどう見ても暇そうです。大体、どうして急ぎの依頼じゃないなんてわかるんですか。昨日も丸一日、何処かに行って捕まりませんし」  彼女は呆れと不機嫌の混じった表情でソファーに寝転がった俺を見下ろす。 「今時急ぎの仕事を手紙で依頼するなんてよほどの変わり者くらいだよ」  俺と和はここ数ヶ月ですっかり日常となったどうでも言い会話をしながら温くなった紅茶を啜る。  そんな平穏にうつらうつらしていると、乱暴な足音が階段を駆け上がってくる。  乱暴な足音の主は、その足音同様乱暴にノックもせず扉を開くと、前置きもなく俺を見つけてこう言った。 「西岩仕事だ」  声の主、瀬葉はこれまた乱暴に書類の束を俺に投げつける。 「ほらな?急ぎの依頼はこんな風に来るんだ」  呆れた表情で俺を眺める和と親の敵を視線で殺そうとするように俺を睨む瀬葉。  俺はソファーに寝転がったまま、ペラペラと資料を捲りながら尋ねた。 「まぁた、彼女の仕業かい?」  瀬葉は俺に背を向けてから答えた。 「……知らん。私からは何も言えん」  彼女が去り、俺がこの事務所を引き継いで以降、これが俺達と瀬葉の関係だった。  そして、瀬葉が持ち込む依頼のほとんどに彼女の影がチラついた。  パッと見ただけでも、今回の依頼からも彼女の甘酸っぱい匂いが漂ってくる。  俺はゆっくりと立ち上がり、鹿討帽を被った。 「ワトスン君。お待ちかねの仕事だ」  和は僅かに眉を顰めため息混じりに言った。 「それじゃまるで私が事件を楽しみにしているようじゃないですか。人聞きの悪い言い方をしないで下さいホームズさん」  今度は俺が眉を顰める番だった。  和は俺の顔を見ると満足そうに悪戯っぽい表情を見せると背中を向けて続けた。 「私が貴方のワトスンなら、貴方は私のホームズです、何処までも付いて行きますから、ちゃんと導いてくださいね」  そう言う彼女の背中はどこか嬉しそうだった。  俺は何か一本取られたような気になり、何も言えずただコートを羽織り、杖を片手に持ちながら頭を掻いた。 「それで今回の事件はどんなないようなんですか?」  和は俺に背を向けたまま恥かしそうに尋ねてきた。  俺にはそれが少し頼もしく思えた。 「ああ、どうやら最新鋭駆逐艦の設計図が――
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