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仏壇の香炉に立てた線香の白煙が、不可思議な模様を描きながら宙に溶け込んでいく。
苦手という人もいるが線香の匂いが私は嫌いでは無かった。
人工的なフレグランスよりも脳内に染み、穢れを浄化してくれると感じるからだ。
会社の同僚として知り合った主人を癌で失くして五年。
一人息子の勇一は3ヶ月後には高校生になろうという年齢になっていた。
41歳で老いを止めた夫の遺影に手を合わせる。
私は夫の年齢を既に越してしまった。
二年間、開く事の無かったアルバムの表紙には微かに埃が付着していた。
勇一誕生時から小学校低学年の頃までの写真が充実している。
遊園地やキャンプ場での家族写真。
楽しかった過去を追憶出来るのが写真の良さだが、現在悲しみに溺れる者を更なる悲哀に突き落とすアイテムでもある。
「あの頃は良かった」
ページを捲る。
夫と息子の笑顔を焼き付けた写真に私の心は沈み涙が溢れ、アルバムを濡らした。
頬に垂れた涙とフィルター上に落ちた雫を指で拭う。
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