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寿司とアルコール
『寿司とアルコール』
その一文で全てを察した。今月も、だめだったのだ。
わずかに開いた唇の隙間から息を吐いて『了解』の返事を送ると、すぐに時間と場所だけのメッセージが届いた。どうやら今回のダメージは相当大きいらしい。
割り切れない感情を表面化さないよう奥歯を噛みしめ、不必要に前髪をかきあげながら椅子に身体を預ける。今日が当直じゃなくて良かった。いつもなら全力でそう思えるけれど、今回ばかりは半々だ。まだ私の気持ちが出来上がっていない。
「あれ、今日残業って言ってなかったですっけ?」
どうしても必要な仕事だけを済ませて帰り支度を始めると、私の下についている研修医が不安げな顔と声を向けた。今日の課題もまだ多く残っている彼は、相談役として残業予定の私をあてにしていたのだろう。
「ちょっとね。急用」
「珍しいな、宇佐美がするつもりだった仕事を後回しにするなんて。急用って何?」
缶コーヒーを片手に戻って来た同期の医師がにやりと片方の口角を持ち上げた。遊び人と名高い彼はきっと何かを勘違いしている。
「大切な人と会うんだよ」
そう、大切な人。だってこの日の彼女を受け止められるのは私しかいない。逆もまた然り。
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