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伸びあがって、ソウタという名の少年が川向こうを指さす。岸近くの雑木林の草むらの中に、もったりと重たげに花弁を開いている大輪のユリ。純白が薄暗がりに雪のように映える。
川を渡り、ふわふわと宙を舞うロボットの脚部から、かちんと音がすると、今度は細長いアームが現れた。先端が二つに割れている細いワイヤーアームだ。ジョイント部分が伸び、刃先がユリの花に近づく。そして指のような先端で、そっと茎を挟んで切り取った。
「コダマ!すごい!」
ユリを手に、コダマがソウタのところまで戻ってくる。マルチローターのプロペラ音は、まるでクマンバチの羽音のように森の中に響く。
差し出されるワイヤーアームが摘まんでいるユリの花を、ソウタが受け取った。ほんのりいい香りがする。
「ありがとう、コダマ」
「ドウイタシマシテ」
コダマの答えはいつも同じだ。
少年はユリの花を手に、嬉々として歩き続け、草原に面した森の中の家へ戻る。
「ただいま、おばあちゃん」
勢い良くドアを開けた。
コダマは、ボディからレッグを出して、リフトアップしながら器用に階段を上がり、ソウタに続く。
「タダイマ」
そこは鄙びた一軒家だった。周りに住民は一人もおらず、部屋は、がらんとして誰もいない。
「ただいま、おばあちゃん。お花を持ってきたよ」
そう告げると、少年は暖炉の上にある祖母の写真へ歩み寄る。そして白いユリの花を、写真の隣の花瓶に投げ入れたのだった。
「お花、おばあちゃんが気に入るといいな」
「気ニ入ルト、イイナ」
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