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「ココナラ、大丈夫」
コダマは国境近くの森の真ん中までくると、ホバリングしながら少年をおろした。辺りは既に闇に包まれている。
「ねえ、コダマ。家にはいつ帰れるの?」
少年は、地面に置いたリュックに手を入れた。
「モウ、帰ラナイ」
「え?」
唖然としたソウタの声。
「帰ラナイ。ココカラ、隣ノ国ヘ、逃ゲル」
「隣の国?」
確かにここは国境は近い。お父さんもそう言っていた。
少年は取り出したパンをかじる。
暗闇の中でコダマのボディの照明が消えた。
「コダマ?」
「シーッ。静カニ、ココデ、待ッテイテ。コダマハ、国境ノ様子ヲ見テクル。声ハ出サナイヨウニ」
微かなプロペラ音を鳴らして、コダマがすっと上昇すると、その姿は暗闇の中へ消えた。コダマがいなくなると辺りは静まり返る。どこか離れたところで草を踏み歩くガサガサという音が聞こえる。森に住む獣たちの気配だ。
コダマがいなくなってしまうと、途端、ソウタは不安に襲われた。普段は少しぐらい離れても気にはならない。必ずコダマは戻ってくるから。
でも今は。
少年は荷物の中から懐中電灯を取り出した。そっと灯りをつける。
「今、何か光ったぞ」
突然、聞こえた男の声。ソウタは慌てて灯りを消す。下草を掻き分ける足音。
「おかしいな。ここらへんだと思ったのに」
今度は聞き覚えのある声が、すぐそばで聞こえる。
「殺すなよ、父親に研究を続けてもらわないといけないからな。」
少年は息を殺した。
「ここにいたか、坊主」
いきなり野太い声が響いた。目の前に屈強な男たちが立っている。
「隠れたって赤外線センサーですぐわかる。バカだな」
兵士は手を伸ばすと、少年の髪を無造作に掴んだ。そのまま持ち上げる。
「やめて!痛いよ!」
「大人しくしないと殺すぞ!」
ソウタの脇腹を思いっきり蹴り飛ばし、草の上にうつ伏せになったソウタを、容赦なく兵士は踏みつけた。こめかみにライフルの銃口を当てる。
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