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ソウタとコダマ
森の中は春爛漫だった。花は咲き、蝶が舞い、鳥がさえずる。
「あ」
道を歩いていた少年は、急に川の畔で足を止めた。
「コダマ。きれいな花が咲いてるよ」
少年は、川の流れる向こう岸を指さした。木陰の下に大きなユリの花。
「あの花を、おばあちゃんに持って帰る」
すると、少年の足元をゆるゆると付いて歩いていた小さな金属製のロボットが、脚部にある全方向ホイールの動きを止める。少年の膝の高さまでもない半球体の小型ロボットだ。
「川ノ流レガ、速イカラ、危険デス」
抑揚のない声が響く。
「平気だよ。平気」
「ダメ。危険デス」
再び、音声が聞こえる。しかも少年の背後から前へ回って、わざと行く手を塞いだ。
「コダマのいじわる!」
コダマと呼ばれたロボットの金属ボディが、虹色に点滅する。その光も、春の明るさの中では目立たない。そして、その小さなボディを振動させた。
「仕方ナイデス。私ガ取ッテキマス」
そう告げると、金属ボディ脇の扉を開き、折りたたんで収納していたマニピュレータを4本広げた。先端にはプロペラ。空を飛ぶためのマルチローターが出来上がる。それぞれの先端のプロペラが高速回転を始め、小型ボディが地面からふわりと浮き上がった。風船のように宙を漂う。
「ドレデスカ?ソウタ」
「あのユリ。白いの」
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