〇リベンジ

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「やっぱり時田はバカだね。この町で宮小路っていったら政治家の宮小路泰蔵(みやこうじたいぞう)先生に決まってるでしょ?」 意外そうな声を出した緑子と、呆れたような安奈の声が重なった。 「……え? そうなの?」 絶句してしまった。地元の名士である宮小路泰蔵の名はさすがに満紀でも知っていた。志堂学院の生徒で宮小路姓ならば思いついてもよさそうなものだが、なんで今まで気が付かなかったのだろう。 「まぁ、満紀さんの大切な朔也君は養子みたいだけど、それでも宮小路の名を名乗っている以上、私だってちょっとは遠慮して考えなくちゃいけない相手ではあるわね。残念だけど」 言葉とは裏腹に少しも残念そうでない緑子は頷いて見せたのを見て、なぜ昨日あんなにもあっさりとカラオケボックスから脱出できたか納得した。緑子が宮小路家の名前に敬意を払ったのだ。 「養子、だったんだ……」 そういえば『今の家に引き取られた』というような言い方をしていたし、『家に居場所がない』という言葉も聞いたことがあるのを今更ながらに思い出した。勝手に親戚の家にでも引き取られたのかと解釈していたが、もう少し事情は複雑らしい。今でこそ、朔也の悩みを聞いてあげられるような立場になりたいと思っているが、当初は痛みなんて知らなそうな勝ち組のお坊ちゃま君だと決めつけて反感を感じていたのが悔やまれる。
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