○序章

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両親の顔が頭に浮かぶと、心に決めかけていた決心が揺らいでしまいそうで、慌てて頭から振り払う。 今夜これから満紀が死んだら家族はきっと悲しむだろうけれど、時田家にこどもは2人。満紀がこの世から居なくなっても、まだ妹である佳代(かよ)がいる。悲嘆にくれる期間が過ぎれば、不出来だった姉、満紀の記憶は薄れていき、やがては皆、最初から満紀などいなかったように振る舞うようになるだろう。 そして優秀な妹、佳代と両親とで仲良し3人家族として暮らして行けばいいのだ。 きっと、そうなる。 ――そう、それでいいのだ。 そう自分に言い聞かせても、一抹の後悔は残る。 なんで私なんかが生まれてきちゃったんだろう?  どんな方法で死んでも、両親に心痛を与えるのは確実、それを思うと胸が痛んだ。朝露のようにただ黙って何も残さず消えてしまえればいいのに……。 だからと言って生きて行くためには、イジメっ子からの要求に応える為に両親の財布からお金をくすねるようなことまでしなければならないが、そんなことまでしたくない。それだけではない、近いうちに要求がエスカレートしていき、多大な迷惑をかけるようになるのは目に見えている。
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